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「Lumadaの進化と顧客との協創で社会課題を解決する」 日立、中期経営計画の進捗と今後の方針を発表

記者の質問に答える東原敏昭執行役社長兼CEO

日立製作所は4月28日、「2021中期経営計画」の進捗状況を発表しました。東原敏昭執行役社長兼CEOは、7月に買収完了を予定している米IT企業「GlobalLogic」とのシナジー効果などについて説明したうえで、「Lumadaを進化させ、顧客との協創を通して社会の課題を解決していく」と語りました。

また、この日、同年3月期の連結決算も発表。当期利益(5,016億円)と営業キャッシュフロー率(9.1%)が過去最高となったことを明らかにしました。

GlobalLogic買収で「日立がDXを加速する」

中期経営計画は2019年5月に発表された3カ年計画で、2021年度が最終年度です。東原社長はこの日、注力するポイントとして、「環境」「レジリエンス(環境の変化や危機に対応する能力)」「安心・安全」の3つを挙げました。

これらの領域に「IT」「エネルギー」「インダストリー」「モビリティ」「ライフ」という5つの事業セクターと、自動車部品を製造する「日立Astemo」が連携して取り組むことで、日立が培ってきた知見とデジタル技術を生かしながら社会の課題と企業経営の課題を解決していくという姿勢を明確にしています。

日立は2016年に顧客の課題解決を提案する独自のデジタルソリューション基盤「Lumada」をスタートさせ、同時に企業統合によるグローバル化を進めています。

その一つがスイスの重電大手ABB社のパワーグリッド事業の買収で、2020年7月に、「日立ABBパワーグリッド」として営業を開始しました。統合効果について、東原社長は「再生エネルギーの効率的な送配電を可能とするデジタルグリッドやHVDC(高圧直流送電)など、環境事業の強化につなげ、グローバル展開していきます」と話しました。

2021年7月に予定されている米国のデジタルエンジニアリングサービス大手「GlobalLogic」の買収は、取得価額が96億ドルと1兆円を超え、日立にとって過去最大級の投資となります。東原社長は「日立の顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速していくことができます」とシナジー効果を述べました。

中期経営計画の進捗について説明する東原社長(中央)

「Lumadaで課題解決し、n倍化していく」

日立が事業のグローバル化を進めていく上で核となるのが、さまざまな顧客にデジタルソリューションを提供する基盤となる「Lumada」です。質疑応答の中で、Lumadaの強みについて聞かれた東原社長は、米国のトラックリース会社が保守メンテナンスにLumadaを活用している例を挙げました。

同社では、保有するトラックの状態をデータで把握し、ビッグデータを解析。いつごろどの部品が故障しそうか、AIが予測して、事前に交換を提案します。メンテナンス工場も指定し、そこに交換部品をあらかじめ送って修理することで、最短時間でのメンテナンスが可能になります。

この仕組みを説明したうえで、東原社長は「これがLumadaのビッグデータ解析やAIを駆使して課題を解決した一例です。こういうシステムを“コンテナ化”し、n倍化(スケーリング)するというのが日立の戦略です」と話しました。

「株主還元を強化する」

東原社長は今後の展望について、「2022年度には、営業利益率とROIC(投下資本利益率)のどちらも10%を超えるようにしたい」と説明。資金配分については、一定の成長投資を継続しながら、「事業成長に基づき、株主還元をより強化していく」としています。

さらにESGを重視した経営を引き続き行う方針なども説明したあと、中期経営計画の進捗発表をこう締めくくりました。

「日立は環境、レジリエンス、安心・安全における社会の課題と企業の課題をデジタルで解決する社会イノベーション事業に注力し、持続的な成長を実現していきます」(東原社長)

2020年度の決算について説明する河村芳彦執行役専務兼CFO

過去最高の当期利益はITセグメントが牽引

2021年3月期の連結決算は、5,016億円の当期利益、9.1%のキャッシュフロー率と、ともに「過去最高」を達成しました。売上は新型コロナウイルスの影響などで8兆7,291億円と前期(8兆7,672億円)に比べ微減しましたが、Lumada事業を中核とするITセグメントが好調だったこともあり、当期利益は前期(875億円)の5.7倍まで拡大しました。

利益の拡大に寄与したのがキャッシュフロー経営です。営業キャッシュフローを前期の5,609億円から7,931億円に積み上げ、営業キャッシュフロー率は6.4%から9.1%と過去最高となりました。

同時にコスト構造改革も進めています。日立ABBパワーグリッドのシェアードサービス機能を活用して、調達、総務、財務機能を集約し、2025年度までに累計で約1,000億円のコスト削減をめざしています。

21年度は増収増益で「V字回復」

決算を説明した河村芳彦執行役専務兼CFOは21年度の売上増に向けて、「Lumada事業のさらなる拡大をめざします」と話しました。インダストリー分野では、作業服やアウトドアグッズなどを販売するワークマンとの協創で、「約10万品目の発注を自動化するシステム」の全店舗への導入が始まります。

今年1月に発足した日立Astemoでは、ほぼ通常の状態なら自動運転できるという世界初の「レベル3」車となったホンダの新型「レジェンド」に、OTA(Over The Air:無線通信)ソフトウェア更新ソリューションが採用された実績も紹介されました。

このような展開を加速することで、21年度のLumada事業売上は、前期(1兆1,100億円)から42%増となる1兆5,800億円に成長する見込みで、その達成に自信を示しました。

また、21年度の連結合計では、売上が9兆5,000億円、営業利益が7,400億円となり、5セクターと日立Astemoを合わせた営業利益率については、20年度の6.5%から8.3%へと増加する見通しです。当期利益は5,500億円と過去最高になる見通しで、ROICも前期の6.4%から8.3%へと増加する想定です。

河村CFOは、「20年度から21年度にかけては増収増益です。20年度をボトムにV字回復します」と意気込みを語りました。