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トラック配送計画のDXで物流業界が変わる! 三井物産グループで「配送計画システム」が稼働
日々、食料品や日用雑貨など私たちの生活に必要な商品を運んでいる物流業務。人体における「血流」にも例えられるほど、生活の根幹を支える重要な仕事です。新型コロナウイルスの流行で巣ごもり生活が広がった結果、その重要性はさらに高まりました。
しかし、物流業界にはドライバー不足や時間制約の厳しい配送手配などの課題が山積しており、業務の大幅な効率化が求められています。こうした課題を解決するため、日立グループは配送計画の立案の「全自動化」に取り組み、ドライバーの労働環境と輸送効率を大きく向上させる配送計画システムを開発しました。
物流DXで配送計画の「完全自動化」へ
物流業界では以前から、労働人口の減少にともなうドライバー不足や、集荷・納品先での待機や夜間運行などによる労働環境の悪化が課題となっていました。さらに、ネット通販を利用する人が増えたことで、物流のニーズも小ロ化・高頻度化しており、これまで行われてきた「人の手による配送計画の立案」に限界が来ていることも指摘されていました。
追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。他人との接触を避けて家で過ごす人々の「巣ごもり消費」が増加したことから、物資を運ぶドライバーの不足はさらに深刻化しています。
こうした物流業界の構造的な問題を解決するために、日立では2017年から、AIやIoTなどの先端技術を用いて、物流業務を最適化・効率化する試みをスタートしました。物流のデジタル化に取り組んでいた三井物産をパートナーに迎え、同社グループの物流関係会社が運営する配送センターに、配送最適化のためのシステムを導入し、実証試験をはじめました。2018年のことです。
「目標としたのは、人手にまったく頼らない、トラックの配送計画の完全自動化です」
こう語るのは、新システムの開発チームを率いた日立製作所のエンジニア、宇山一世さんです。
「実効性のある配送計画をつくるには、コンビニなどの配送先の状況や時間指定などの業務要件を踏まえる必要があります。例えば、届け先のコンビニに駐車場があるか、なかったとしたら周辺の駐車場に停車できるか。あるいは、荷物の積み下ろしにどれくらいの時間がかかるか。そういった点を配送先ごとに細かく把握し、それぞれの特性を考慮した上でトラックの配送ルートを減らすことができる配送計画をつくらなければいけません。そのため、これまで配送計画の立案は、配送ルートに関して詳しい知識と経験を持つベテランに委ねられていました」(宇山さん)
しかし配送計画の立案をベテランの知識と経験に頼っている限り、ノウハウがその人にのみ集約され、組織内で共有されないという問題が起きてしまいます。また、担当者が病気で休んだり、退職したりすると、途端に業務遂行に支障が生じます。
「そこで私たちは、熟練者の知見を『見える化』し、ノウハウや調整事項などを全て織り込み、計画立案作業を全自動化することで、最適な配送計画を誰でも簡単につくれるシステムの開発をめざしたのです」(宇山さん)
また、計画立案作業の自動化にあたっては、今まで改善が難しいとされてきた配送先から配送センターに戻るトラックの「帰り便」も有効活用することにしました。
具体的には荷物を届けた後で、近くの配送センターに立ち寄って集荷し、別の届け先に運べば、トラックの運送効率は大幅に向上します。配送業務における「帰り便」の活用は、ルートが複雑になるため人による検討には限界があり、これまでは約6割ほどのトラックしか活用できていませんでした。
ベテランの「暗黙知」をシステム開発に生かす
「帰り便の活用を検討する上で大切なのは、『ドライバーにとって実行が可能な計画』を作ること」と宇山さんは言います。システムが計算で計画をつくることにより、配送が効率的になりすぎて、物を運ぶ生身のドライバーに無理を強いては、本末転倒だからです。
配送計画の立案を担当するベテランは、自分自身が過去にドライバーだったことが多く、実際の輸送に関する細かい状況を熟知しています。そのため、適度に余裕を持たせた計画をつくることができます。そうしたドライバーの実情を踏まえた計画をシステムが作成できるよう、熟練者の頭の中にあった「暗黙知」をひとつひとつ分析して、システム開発に生かしました。
はじめに分析したのは、物流会社が管理していた日々の配送データやGPSが記録したトラックごとの運行実績データ。そして、「店舗に何時何分に入って何分後に出たか」といった記録が書かれた業務日報などです。この分析により、新たな発見もありました。
「ベテランにも思い込みがあり、例えば『あの店舗は15分積み下ろしにかかる』と思っていても、実際には20分かかっていることもあります。そんな現実は、GPSデータを詳しく分析してみて初めてわかることです。ベテランへのヒアリングも複数の業種を対象にかなりの時間をかけて行い、機器で取得したデータと合わせて、システムを動かす関数をつくっていきました」(宇山さん)
こうしてできあがった配送計画システムには、(1)納品日時(2)物流センターや配送拠点の位置(3)走行ルート・走行時間(4)渋滞の情報(5)積荷・滞店時間(6)トラックの車格(トン数)(7)ドライバー、などの情報が「変数」として組み込まれました。
そして、計画を短時間で自動的に立案するアルゴリズムも完成。担当者は、積み荷の数や配送先、トラックの出発時間などの条件をパソコンに入力するだけで、数十台のトラックごとの最も効率的なルートを示した配送計画を立案することができるようになりました。
複雑な配送計画も数分で出力
配送計画のデジタル化は、以前は難しかった複雑な計画の作成も容易にしました。トラック輸送では、配送センター内の「バース」と呼ばれる場所で、荷物の積み下ろしを行います。
例えば「50台のトラックが10カ所のバースで積載を行い、300店に配送する」といった計画をつくる場合を考えてみましょう。
これまで人の手で立案していたときは、納品時間の早いトラックから優先的にバースを割り当てていました。しかしその方法では、前のトラックの集荷を待っている間、複数のトラックに無駄な待機時間が多く発生してしまいます。
一方、デジタル化された配送計画システムでは、配送ルートと集荷内容に合わせたバースの利用順序を立案することで、待機時間の発生を大幅に削減することが可能になります。実証試験では、それまで50台必要だったトラックを、45台に削減できることがわかりました。
「このシステムが立案したルートで配送を実行した場合、トラック台数の約10%の削減が達成できます。輸送効率の向上と、ドライバーの残業時間減少など労働環境の改善を同時に実現することができるのです」と宇山さんはメリットを語ります。
新システムの導入に向けた実証試験では、三井物産グループの物流企業「物産ロジスティクスソリューションズ」も協力し、このたび本格稼働に至りました。同社のデイリー共配本部 関西運営部(インタビュー当時)の秋田博之さんは、配送計画システムについて「処理速度」が重要だと指摘します。
「私の部署では、大手コンビニチェーンの関西エリアの店舗に対して、複数の配送センターから食料品などの輸送を行っています。以前も配送計画のデジタル化にトライしたことがあったのですが、導入したシステムはいずれも計算に非常に時間がかかるのが問題でした」
条件を変えると、計画が出力されるまで半日以上かかることも珍しくなかったのです。
「それに比べて日立のシステムは、実務に合わせて複雑な条件に変更しても、ものの数分で計画を出力してくれます。昨年、新しくできた配送センターを発着地とするルートもスムーズに立案でき、配送計画にかかっていた人的・時間的コストを大幅に削減できました」(秋田さん)
さまざまな業種で配送効率の向上をめざす
「物流という仕事は、100個の荷物のうち例え1つでも届かないと大きな問題になります。決められた日時に、お客様のところへ確実に荷物を届けることができて当たり前の仕事なんです」
そう語るのは、三井物産 物流ソリューション室の御手洗正夫さんです。
御手洗さんは、三井物産のグループ関係会社に日立の配送計画システムを導入することを推進し、実証試験でも現場に立って、システムの改善に携わりました。日立グループをパートナーとして選んだ理由について、次のように説明します。
「既存の配送計画システムでは業務要件の反映に限界があり、我々が考える計画立案の完全自動化が実現できないことが、過去の現場経験で分かっていました。今回、新たにシステムを導入するにあたり、改めて複数社に打診しましたが、細かい業務要件を反映させるために、数理計算を専門とする研究員を打ち合わせに同席させて、実現可能性について議論してくれたのは、日立だけでした。そして、何度か打ち合わせを重ねることで、日立が配送の最適化問題を数理的に解決する高度な技術を持っていることが確認できました。また、それ以上に大切だったのは、物流業務の現場のオペレーションでのこだわりや細かいノウハウについての感覚を共有できたことです。これが、日立と一緒にシステムを構築することを決めた一番の理由です」
日立の配送計画システムが活用できるのは、コンビニの配送だけではありません。さまざまな物流分野の配送計画を効率的に立案するために、汎用的に利用できます。
日立では今後、このシステムの利用範囲を多くの業種に広げていくとともに、グローバルに展開していくことを視野に入れています。すでにタイと中国の物流企業では同様のシステムが運用を開始しています。
人の手を介さない配送計画の立案と、輸送の効率化を同時に実現する本システムは、多くの産業に貢献できる可能性を秘めています。