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「デザイナーは未来を描く人」 デザインディレクターが語るデザインの本質
「デザイン」という言葉からどんなものを想像するでしょうか。家電や洋服、商品パッケージや建築物などを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、デザインという概念は物理的なものに限らず、多岐にわたります。例えば、消費者の利便性を高める「体験」や、高齢者が生きがいを持って生活することができる未来の「社会」などです。
こうしたデザインをする人たちは「デザイナー」と呼ばれますが、実際にどのような仕事をしているのでしょうか。日立のグループ会社であるGlobalLogicのデザインスタジオ「Method」では、デジタル技術を活用した製品や体験をデザインしています。そこでデザインディレクターとして活躍するサンドリーン・ハーバートさんに話を聞きました。
デザイナーの仕事とは
――そもそも「デザイナー」とは、どのような仕事でしょうか?
サンドリーンさん(以下、サンドリーン):デザイナーは、一言で言うと「未来を描く人」だと思います。顧客が抱えている課題を分析して、改善点を浮き彫りにします。その上で、「どんな未来をめざすべきか」「その未来を実現するためにはどのような技術を活用すれば良いのか」というゴールを提示するのです。
そして、ゴールを資料、イラスト、試作品、映像などに落とし込み、エンジニアと一緒に具体的な製品やサービスに形作っていきます。同時に、完成した製品やサービスが、流行やトレンドに左右されることなく残り続けることも検討する必要があります。つまり、デザイナーは製品やサービス開発の起点になる人なのです。
――そんなデザイナーになりたいと思ったきっかけは何ですか?
サンドリーン: 幼い頃、祖父が家の間取りや内装を変えるために図面を描いたり、日曜大工をしたりするのを見るのが好きでした。自分の想像次第で、家の内装だけでなく、家族の暮らし方や家の中に漂う雰囲気まで変えられることにワクワクしたんです。思い返せば、この体験がデザインを志すきっかけになったと思います。
その後、建築を学ぶためにフランスの美術大学に進学しましたが、授業で様々なデザインの領域に触れるうちに、プロダクトデザインに関心を持ちました。特に、当時はやっていたカメラ付き携帯電話のデザインについて学んだ時に、デザインとテクノロジーを掛け合わせることの面白さを実感しました。
卒業制作では、ルクセンブルクの公共Wi-Fiサービスのデザインを題材としたことがきっかけで、エクスペリエンスデザインを専門にしようと決めました。エクスペリエンスデザインとは、「体験」をデザインの対象とする分野で、私たちの体験をより豊かで快適なものにするためのものです。
利用者の「体験」をデザイン
――卒業後はフリーランスのデザイナーなどを経てMethodに入社されますが、これまでどのようなプロジェクトを担当してきましたか?
サンドリーン: マクドナルド社と行った取り組みが印象に残っています。同社は、ネット注文用のスマホアプリに課題を感じていて、より使いやすいデザインにして欲しいと依頼されました。そこで、さまざまな角度から現状分析をしたところ、マクドナルドの利用者は、レジで注文をする際に早く注文しなければならないというプレッシャーを感じている人が多いことが分かりました。そこで、当初の要望に加え、店舗にタッチスクリーンを設置し、商品を注文できるソリューションを開発することにしました。
また、経済誌「The Economist」を発行するエコノミストグループから、同社が提供しているスマホアプリやウェブサイトの操作性を向上させたいとの要望を受けました。ところが、現状分析の結果、複数のスマホアプリを提供することで、利用者を混乱させていたことが分かりました。そこで、利用者の「体験」を踏まえたアプリの統廃合を行うという提案に至りました。これはデザイナーが利用者の行動を徹底的にリサーチして、自らアプリを利用することで見出した解決策です。
いずれのプロジェクトも、現状分析を行うことで、当初課題とされていたこと以外の課題を発見し、利用者により良い「体験」を提供することができました。これこそがエクスペリエンスデザインの醍醐味だと思います。
――デザインの仕事をする上で嬉しいこと、また難しいと感じることはありますか?
サンドリーン: やっぱり顧客やサービスの利用者が喜んでくれたときに嬉しく感じます。私のデザインを通して、社会に良い変化や影響を与えることができたと実感できるからです。後輩のデザイナーが成長し、プロジェクトをリードする姿を目の当たりにするのも嬉しい瞬間です。
一方で、顧客やプロジェクトメンバーとのコミュニケーションで難しく感じるときもあります。デザインの仕事では、顧客とデザイナーの間で常に共通のイメージを持つことが重要ですが、時には顧客の考えが突然変わることもあります。そんなときに一番大切なのは、謙虚さと柔軟性を忘れないことです。自分の考えを貫き通すことはしません。「なぜこの人はそう思ったのだろう」と頭を切り替えて、前向きなコミュニケーションを取ることを徹底しています。
デザインの力で環境問題に取り組む
――Methodの特徴を教えてください。他のデザイン会社とどういった点で異なるのですか?
サンドリーン: Methodは、私が働くロンドンのほか、ニューヨークやノースカロライナなど、英米に6つの拠点があり、約300人のデザイナーとエンジニアが在籍しています。それぞれのデザイナーは、未来を想像する力に長けていると思います。地球温暖化や食料問題など、将来にわたって解決しなければいけない問題を想定し、そうした視点を顧客への提案に盛り込むように心がけています。
また、もう一つの特長として、スピード感が挙げられます。Methodは、優秀なエンジニアを多数抱えるGlobalLogicの傘下にあるため、製品やサービスを開発するだけでなく、実際に製造して利用者に届けるところまで一手に担うことができます。このため、より早くアイデアを形にして世に出すことができるのです。完璧でなくても良いので早く形にして、利用者に使ってもらいながら効果を検証し、そのサイクルを繰り返す。これがMethodのスタイルです。
――今後はどのような仕事に取り組んでいきたいと考えていますか?
サンドリーン: デザインにおいても環境への配慮は欠かせません。Methodは、デザイナーが作り出す製品やサービスが余分なCO2を排出せず、“地球に優しい”ものであるようにする「サステナブルデザイン」或いは「レスポンシブルデザイン」という新しい領域にも注目しています。私は、通常の業務をこなしつつ、この分野の開拓を担当しています。
日立グループの一員になったことで、「脱炭素化が達成された社会の在り方」について検討したり、貢献したりする機会が増え、とてもワクワクしています。スケールが大きく、かつ未来のことなのでどこにも答えはありませんが、「デザインの力」でこうした課題に挑戦していきたいと考えています。