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「データとテクノロジーで、フロントラインワーカーを輝かせる」日立・小島社長

日立製作所が主催する「Hitachi Social Innovation Forum(HSIF) 2024 JAPAN」が東京国際フォーラムで行われました。日立グループのビジネス戦略や先進的な取り組みを紹介するグループ最大規模のイベントです。

オープニングを飾ったのは、小島啓二社長兼CEOによる基調講演です。小島社長は、データとテクノロジーを活用した「現場のイノベーション」に力を入れると説明。「フロントラインワーカーが生き生きと働くことができる現場の実現に、日立は全力で取り組んでいく」と決意を口にしました。

高度な活動で現場を支えるフロントラインワーカー

製造工場の組み立て担当者や物流を担うトラックドライバー、医療現場を支える看護師──。さまざまな業界の現場の最前線で、頭脳と肉体の両方を駆使して働く「フロントラインワーカー」が、私たちの社会を支えています。しかし、小島社長は「フロントラインワーカーの努力が、日本が世界に誇れる強みである『現場の力』を支えてきた」としたうえで、それが人手不足で厳しい状況に置かれていると述べました。

「現場では、絶えず変化する環境の中で、限られた時間内に安全性、品質、生産性、環境配慮などの目標を全て同時に達成しなくてはなりません。現場の人手不足が世界的な社会課題となっていますが、フロントラインワーカーの仕事は、頭脳と肉体をリアルタイムで統合的に活用しながら環境の変化に柔軟に対応することが求められる高度な活動で、簡単にデジタルに置き換えられるものではありません」

このように小島社長は指摘します。しかし、現場で人間が使う一つ一つの力をテクノロジーで拡張し、それを人間が統合して生かすことができれば、「フロントラインワーカーの心身への負担を軽減し、ウェルビーイングを高めることが可能です」と解決の方法を示しました。

そのためにテクノロジーをどう活用できるでしょうか。ここでは、フロントラインワーカーが現場で駆使する「思考力」「コミュニケーション力」「五感力」「作業力」という四つの人間力に着目してみましょう。製造現場の作業を例にして、具体的に説明していきます。

四つの人間力を拡張、フロントラインワーカーが輝ける現場に

まず、「思考力」の拡張。生成AIは今後、文字だけでなく、図面、映像、音声などさまざまなタイプの情報を学習できるようになっていきます。作業記録やノウハウを学習させた現場独自の生成AIを活用すれば、作業者は必要な情報を瞬時に参照し、判断に役立てることができるでしょう。

また、5Gや6Gの高速通信環境の整備は「コミュニケーション力」を拡張します。高精細な映像や資料をリアルタイムに共有できれば、離れた場所にいるフロントラインワーカー同士が情報を密に共有し、連携できます。

そして、「五感力」。センシング技術やVRの活用は、現場空間の共有やモニタリングに効果的です。現場の音や映像をもとに異常やリスクを検知したり、生体情報や作業負荷のモニタリングで健康状態をチェックしたり、作業者の「五感力」を拡張すれば、現場の安全性や品質を高めることに直結します。

さらに、ロボティクス技術は人間の「作業力」を拡張します。力仕事をサポートするアシストデバイスやドローンを活用することで、身体の負担を減らすとともに、高い場所や広い範囲の点検を安全かつ迅速に行えるようになります。

このように、フロントラインワーカーが現場で使う四つの人間力を拡張していくことによって、日立は、データとテクノロジーの力でフロントラインワーカーが輝く現場を実現していきます。フロントラインワーカーが生き生きと働ける環境を整備することで、現場の安全性や品質、生産性、環境配慮を一段と高めることができます。

小島社長はさらに大事な点を強調します。「拡張された四つの力を統合して、新しい価値の創造に挑むことができるのは、汎用的な力を持つ人間だけだと、私は考えています。人間にしかできない価値の創造に挑む。これが、日立がめざす現場のイノベーションです」と宣言しました。

ベテラン作業員の技術を継承する「鉄道メタバース」

日立は、フロントラインワーカーの「人間力」を拡張するさまざまな取り組みを進めています。その一つに「鉄道メタバース」があります。これは、実際の鉄道車両や線路のデータを仮想空間に再現したものです。

東武鉄道のケースでは、浅草と日光・鬼怒川方面を結ぶ新型特急「スペーシアX」の設計データをもとに、配線や機器のレイアウトを反映した車両をデジタル空間に構築し、今後の実践的な活用に向けて議論を開始しています。

ベテラン作業員の技術やノウハウをいかに引き継ぐかが大きな課題となる中、日立は幅広い世代のトレーニングや情報共有に「鉄道メタバース」を活用しようと考えています。

例えば、新人作業員が実際のメンテナンス作業を行う前に、鉄道メタバースのデジタル空間で、手順や注意点を確認したり、不明点をベテラン作業員に相談したりできます。また、その際に生成AIを活用して、過去の整備記録などの情報をタイムリーに参照することもできるでしょう。

「鉄道メタバースを使えば、仲間とのコミュニケーションを図りながら、より直感的でスムーズなトレーニングや技術継承が可能になります」と小島社長はそのメリットを紹介しました。

多岐にわたる最先端技術を「統合する力」が日立の強み

これまで述べてきた「現場のイノベーション」を推し進めるには、AI、通信、ロボティクス、VRなど多岐にわたる最先端の技術を統合的に活用することが重要です。日立は、NVIDIAやMicrosoftなど、最先端の技術を持つテクノロジー企業とのコラボレーションに取り組んでいます。さらに、ロボティクスをはじめとするさまざまな領域で、スタートアップへの出資や提携を積極的に行っています。数多くのパートナーと、現場の課題を解決するための協創を進めているのです。

小島社長は「日立はIT・OT・プロダクトにまたがる幅広い知見と技術を有しています。それらを統合して、さまざまな分野のソリューションを開発し、提供することに長年取り組んできました」と述べ、さらに「多岐にわたる最先端の技術を統合する力こそが日立の強みだ」と強調しました。

今後、さまざまな業界で「現場のイノベーション」が進んでいくと、インフラ負荷の増大や人財の育成といった新たな社会課題が生じることが予想されます。それらの課題を克服するためには、各企業が個別に最適化するだけでは限界があります。産業界や行政、研究機関などが一丸となって課題に立ち向かう必要があります。

この2020年代は、現場・インフラ・産業のあり方が大きく変わるターニングポイントなる可能性があります。そんな大変革の時代を乗り越えるために「共に何ができるか考えていきましょう」と、小島社長は呼びかけました。

「私たち日立は、技術の力で新時代の社会インフラを支えます。皆さまとの協創を通じて現場のイノベーションを推進し、輝く現場、輝く社会の実現に全力で取り組んでいきます」

小島社長はその決意と覚悟を力強く語りました。