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「密を作らない快適な移動を実現」 AIやシミュレーション技術で混雑情報を予測
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、感染対策のため、“密”を避けることが求められています。こうした中、日立製作所は電車やバスなどの乗客の流れを、AIやシミュレーション技術で予測して、その分析結果を提供する「人流予測情報提供サービス」を開発。2022年1月27日から販売を始めました。同サービスで得られた「混雑予測情報」は、公共交通機関での感染予防に役立てることができるほか、交通事業者の業務効率の向上やコスト削減につなげることができるため、交通事業者間での期待が高まっています。
正確な混雑状況の把握に高まるニーズ
全世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。予断を許さない状況が続いています。厚生労働省は、多くの人が集まる機会が増えると感染が拡大したことから、「3つの密(密閉・密集・密接)」を避けるよう呼びかけています。
通勤・通学や外出に欠かせない電車やバスなどの公共交通機関においても例外ではありません。利用客は、ウイルスから自分自身を守るため、混雑を避けた時間帯に乗車することが推奨されています。
こうした中、日立製作所は、乗客の流れを予測・シミュレーションして、混雑情報の分析結果を提供する「人流予測情報提供サービス」を開発。鉄道やバスなどを運営する交通事業者向けに、2022年1月27日から販売を始めました。
サービスの開発に携わる日立製作所の三輪真生さんは、「駅や電車、公共施設などにおける混雑状況を把握したいというニーズが高まっています」と指摘したうえで、「混雑を回避して密を作らない快適な移動の実現に向けて貢献したいです」と述べています。
過去データから将来の混雑状況を予測
「人流予測情報提供サービス」は、日立独自のAI・シミュレーション技術を活用しており、交通事業者が保有する過去の混雑状況に関するデータを分析することで、将来の混雑状況を予測します。
こうして算出された混雑情報は、それぞれの交通事業者の状況により、「座席に座る程度」「ゆったり立てる程度」「肩が触れ合う程度」「かなり混みあっています」など複数段階で表示が可能で、30分単位で発信することができます。
交通事業者がこうした情報を利用者に届けることで、利用者は、出発地から目的地まで、混雑を避けた移動経路の選択ができるようになります。
さらに、交通事業者は同サービスを利用することで、ダイヤを最適化することが可能になり、業務の効率を上げたりコストを削減したりすることができるといいます。
「過去数年分のデータからAIで算出した将来の移動需要をもとに、運行本数や運行間隔の見直しなどを行えるようになります。このため、混雑しすぎないように配慮しながら運行本数を減らせるなど、輸送業務における運用コストを削減できます」(三輪さん)
また、線路や電車などのメンテナンスを日中に行う場合のシミュレーションをすることで、これまで深夜に行わざるをえなかったメンテナンスを日中に実施できるようになり、交通事業者の働き方改革にもつなげられるといいます。
「交通事業者は、線路や電車などのメンテナンスを、人手不足の影響もあり、無理なスケジュールで深夜に行うことが多いです。ただ、正確な混雑情報を利用すれば、作業員が多く乗客が少ない昼間の時間帯に交通機関を一時的に止め、メンテナンスを行うことも可能になります。これにより、メンテナンス計画の最適化ができるのです」(三輪さん)
AI活用で複雑な運行パターンに対応
このサービスを開発することになったきっかけについて、三輪さんは、新型コロナウイルスの感染拡大があったといいます。
これまで混雑状況を把握するには、目視による計測などをもとに、一定の時間帯ごとに大まかな乗車人数を推定していました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、鉄道事業者からは、「電車一本一本の混雑情報を正確にわかるようにしたい」という要望が出るようになったといいます。
「鉄道事業者や乗客も『だいたいこの時間帯は混んでいるよね』という肌感覚は以前から持つことができました。しかし、感染対策への意識が高まる中で、こういう粗い情報ではなく、『時刻表上で電車の混雑情報を正確に知りたい』という声が多く聞かれるようになりました」(三輪さん)
こうした声を受けて始まったサービス開発ですが、交通事業者の多種多様な運行パターンに対応したサービスにすることに苦心したといいます。しかし、日立独自の技術を活用することで、その課題を解決することができました。
「走行時間や経路などの運行パターンは、交通事業者によってそれぞれ全く異なります。同サービスを広く利用してもらうためには、いかなる運行パターンにも対応できなければなりません。それを実現するのは技術的に凄く難しいですが、弊社のAI・シミュレーション技術のおかげで、様々な運行パターンにも対応可能になりました」(三輪さん)
「快適な移動の実現に貢献したい」
こうして開発された「人流予測情報提供サービス」ですが、更なる課題もあります。電車やバスの各線が複数乗り入れている首都圏の駅では、交通事業者1社のデータだけでは、駅の混雑状況を推定するのが困難です。そこで三輪さんが考えているのが、複数事業者間の情報を集約することで、そうした駅の混雑状況を分析することです。
「自社だけだと人流を把握できないような駅において、日立が複数の交通機関の混雑情報を手掛けることで、ノウハウとして、『人の移動はこういうものだよね』という知見を蓄え、リッチな混雑情報をお客様に提供できると思っています」
利用者の移動の利便性を高め、交通事業者の運用効率を上げることに期待が高まっている「人流予測情報提供サービス」。三輪さんは、今後の抱負について次のように話しています。
「公共交通機関の利用客が感染対策をする際に、より良い選択が取れるように、お手伝いをしたいと思っています。このサービスを公共交通機関に対して広く提供できれば、利用客は混雑情報を加味した別ルートを検討することも可能です。公共交通機関における密を回避した快適な移動の実現に向けて貢献していきます」