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「指をかざすだけでチェックイン」 日立、ホテルや会員制施設のDXを推進
日立製作所は2022年3月14日、個人の属性や証明書などの情報を電子化した「デジタルアイデンティティ」と「生体認証」を活用し、宿泊施設などに手ぶらでチェックインできる新たなシステムの実証実験を行ったことを明らかにしました。
同システムでは、生体情報を読み取る装置に指をかざすだけで、会員情報や各種証明書の提示が可能になります。先月、都内のホテルで行われた実証実験では、システムを利用したことで、チェックイン時の受付時間が大幅に短縮されたことが確認されました。
利用者の利便性が向上するほか、ホテルや会員制施設のDXが進むことに、期待が高まっています。
コロナで苦しむ業界にDX化で貢献
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、利用者が減少している「ホテル業界」。遠のいた客足を呼び戻すため、「PCR陰性者プラン」や「ワクチン接種者プラン」など、利用者の安全に配慮したプランを設けるホテルが増えています。
しかし、こうしたプランを利用する際は、通常、陰性証明書やワクチン接種証明書の提示・確認が必要になり、チェックイン対応に手間と時間がかかることが課題となっています。
そこで日立は、デジタルアイデンティティと生体認証を活用し、チェックイン時に指を装置にかざすだけで、さまざまな証明書をまとめて提示・確認できるシステムを構築しました。
同プロジェクトを率いる日立製作所の清藤大介さんは、受付時間を短縮することで、利用者だけでなく、ホテル側にもメリットがあると強調します。
「利用者は証明書を持ち歩かなくても手ぶらでチェックインできますし、ホテル側のスタッフは、確認の手間が少なくなることから、両者にとってメリットがあると考えています」
チェックイン時間を約20%短縮
システムの利用に先立ち、利用者は、ワクチン接種証明や会員証などのデジタルアイデンティティ情報を事前にインターネット上で登録。その後、ホテルなどに設置されている「指静脈認証装置」で自分の指静脈を登録し、デジタルアイデンティティ情報と生体情報を紐づけます。
こうした事前登録をしておけば、あとはとてもスムーズです。ホテルのチェックイン時には、受付に設置してある認証装置に指をかざすだけで、ワクチン接種状況やホテルの会員番号など必要な情報が、スタッフの手元にあるタブレットにまとめて表示されます。
通常ならば、紙の証明書をカバンから出したり、会員証のスマホアプリを立ち上げたりといった手間がかかりますが、そのような煩わしさはありません。また、受付のスタッフは、画面に表示されたワクチン接種証明などの有効期限をもとに、クーポンの発行といった各種サービスを効率的に提供することができます。
2022年2月14日~28日に都内のホテルで行われた実証実験の結果、通常のチェックイン時間に比べて、チェックイン時間を1人当たり約20パーセント短縮できたということです。
「新しいシステムでは、チェックインに要する時間を40秒以上短縮できました。さらに、非接触でのチェックインが可能になるため、コロナ感染のリスクも抑えられます」(清藤さん)
システムの特徴はこれだけではありません。生体認証には日立独自の特許技術「PBI(公開型生体認証基盤)」が採用されており、装置で読み取った生体情報は、復元できない形に暗号化されます。このため、万が一システム上のデータが漏えいしても、生体情報を悪用される恐れがなく、プライバシーが厳重に保護されているのです。
テクノロジーとホスピタリティの融合
システムの開発にあたっては、技術面だけでなく、「UX(ユーザーエクスペリエンス、顧客体験)の向上に力を注ぎました」と語る清藤さん。受付のスタッフに何度もヒアリングをして、業務効率を改善するだけではなく、人の温かみを感じられるような顧客体験の創出をめざしたといいます。
「私自身は当初、受付の完全無人化も考えていました。しかし、ホテルスタッフの皆さまは、チェックイン業務を“お客さまとの最初のコミュニケーションの機会であり、安心感を与える場所”として大切にされていました。そこで、人と人との温かみのあるやりとりを残しながら、日立のデジタルテクノロジーをいかに活用するか、という方向に考えをシフトさせていきました」
こうした設計思想を貫いたこともあり、実証実験後のアンケート調査では、利用者の9割以上が「また利用したい」と回答。特に、チェックイン時の手間を省ける点を評価する声が多かったといいます。
一方のホテル側についても、9割以上のスタッフが「システムに満足した」と回答。「会員ステータスが一目でわかる」「チェックイン時に必要な情報が提示されている」といった業務効率の改善に対して、好印象を抱いたスタッフが多かったということです。
生体認証は「利便性のためのツール」に
アンケート調査の結果から、利用者側の新たなニーズも見えてきました。
「チェックイン時の手間や業務を更に削減するために、クレジットカードの決済やポイントカードとの連動を求める声がありました。生体認証を用いたクレジットカード決済は、すでにサービスとして提供しているので、今後は、こういった既存サービスとの連携も検討したいと思います」(清藤さん)
ホテル業界や会員制施設に限らず、レストランやスパ、フィットネスなど様々な施設での活用が期待されているこのシステム。今後の展望について、清藤さんは次のように語ります。
「これまで生体認証は“セキュリティのためのツール”という側面が強くありましたが、これからは“利便性のためのツール”という側面も重視されるようになると思います。今後は登録プロセスの効率化など、UXをさらに改善しながら、ホテルや会員制施設などのDX推進に貢献していきたいと考えています」