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ChatGPTで話題の「生成AI」とは? 働き方を変える最新技術
AI(人工知能)へ質問を投げかけると、人間のような口調で、素早く自動応答してくれる——。米国のOpenAIが開発した「ChatGPT」の登場をきっかけに、「生成AI」と呼ばれる技術が話題になっています。これまでのAIと何が違うのか。どのような未来をもたらすのか。日立製作所のGenerative AIセンター長を務める吉田順さんに聞きました。
生成AIと従来のAIの違いとは?
──生成AIとは、どのような技術でしょうか。従来のAIとの違いを教えてください。
吉田順(以下、吉田): 生成AIの特徴は、用途に合わせた文章や画像、音声、動画などを人間が表現したかのように生成する点です。生成したいイメージをテキストで入れるだけで使えるため、誰もが分かりやすく簡単に利用できます。
従来のAIは、用途ごとに開発していました。例えば、設備の故障を検知するシステムでは、家電や自動車、エレベーターなど機器別にAIを用意しており、活用するのに専門知識も必要でした。しかし、ChatGPTのような生成AIが登場したことで、汎用性が高まりました。
さまざまな人が利用することで、幅広いユースケースを生み出しやすくなりました。「AIの民主化」とも言える状況になったことが、最近の大きな変化でしょう。
とはいえ、従来のAIとまったく別の新技術ではありません。むしろ、その延長線上にあるものだと思っています。振り返ると、過去にも生成AIと言えるような研究は存在していました。
──なぜ今、生成AIが注目を集めているのですか。
吉田: AIの歴史を追いながら説明します。AIの研究開発は、1950年代後半~1960年代に第1次ブームが起きて以来、ブームが起きては去っての繰り返しです。第1次ブーム当初は、コンピューターが探索と推論をすることが注目されました。しかし、数学の証明など単純な特定の問題への回答しかできませんでした。専門知識を必要とする現実社会の複雑な問題には太刀打ちができなかったのです。
その後、1980年代に、現実社会の事実や常識、経験などの知識をコンピューターが解読できる形で蓄積できるようになり、第2次ブームが起きました。専門知識を取り込んだコンピューターが、複雑な問題を推論できるようになったのです。ブームは続くかと思われましたが、コンピューターへの知識の入力は人力に頼っていたため、またもやブームが終了してしまいました。
そして、コンピューターが自動で学習する機械学習、ディープラーニングの技術が進歩して、2010年代から第3次ブームがやってきました。第3次ブームの中、2020年代に登場したのが生成AIです。誰でも簡単に使えるという汎用性が高いため、現場からボトムアップで活用法の提案ができます。これで、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が大きく加速する可能性があります。
──生成AIを活用する上で、注意することはありますか。
吉田: いくつかありますが、まずChatGPTなどの生成AIは、インターネット上の公開情報を学習に使っているという点で、著作権の問題が生じる可能性があります。また、学習データにSNS投稿が含まれていると、発信者が特定できる情報が生成される場合があり、プライバシー侵害の恐れがあります。さらに、ジェンダーや宗教に関連して生成されたものにも倫理的な配慮が必要です。
「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象にも注意が必要です。事実と違うのに生成AIがもっともらしく答える現象です。従って、生成されたものを使用する際には、事実関係を確認したり、「生成AIから出力したものです」と明記したりする対策が求められます。
働き方を変えていく生成AI
──生成AIの活用法として、どのようなものが考えられますか。
吉田:企画を立てるとき、資料のたたき台を作ることができます。セールスやマーケティングでの活用も進んでいます。ECサイトのロゴや商品紹介文を大量に生成させて、反応が一番いいものを残すといった利用法です。
満足度調査などのアンケート集計も、ある程度まとめてくれるでしょう。そうなるとデータサイエンティストは、もっと高度な分析に取り組めます。また、製品の設計資料といった過去の資産を、生成AIに聞くことによって簡単に呼び起こせれば、さらなる生産性や品質の向上をめざせますね。
──生成AIは、働き方を変える可能性も秘めているのですね。
吉田: 働き方だけでなく、若手社員の育て方も変わると考えています。日立製作所では入社2年目まで指導員が付くのですが、指導員の属人的な力量に加えて、生成AIによって日立全体のナレッジ(知見)を共有できると、人財育成も加速するのではないでしょうか。
若手社員は「忙しそう」とか「格好悪いから」という理由で、指導員や上司に質問できないことも多いようです。そんなとき、生成AIに聞く若手社員が出てきています。先輩に一から聞く前に生成AIに相談してから先輩に質問する。生成AIを使いこなすと、若手社員の育つスピードも変わってくるかもしれません。
──生成AIが指導員に取って代わるのでしょうか。人間としては何をしていくべきでしょうか。
吉田:生成AIが出した結果の良し悪しの判断は新人にはできないので、先輩や上司が指導する面は必ず残ります。人間が関わる仕事がなくなることはありません。定型的な作業の中でも、人間が考えなければいけない部分が残るとみています。AIで効率化しつつ、人間はより専門性が高い業務を担うようになっていくでしょう。また、生成AIが間違っている可能性もあるため、人間による最終的なチェックは必要です。
人間中心での生成AI活用
──日立としては、どのように生成AIと向き合っているのでしょうか。
吉田: 日立では2021年に「AI倫理原則」を定めました。全てのAI関連のプロジェクトは、この原則に沿っているかを厳格にチェックしてきました。判断が難しい部分は、外部有識者のアドバイスを踏まえて決定しています。ここで重視しているのも「人間中心の視点」です。
また、2023年、生成AIの知見を集めて推進する組織として、データサイエンティストや研究者、セキュリティの専門家らによる「Generative AIセンター」が設置されました。
──Generative AIセンターでは、どのような活動をしているのですか。
吉田: 先に話したようなリスクを回避して安全に使うためのガイドラインを定めています。多くの社内ガイドラインは年単位で見直しますが、生成AIはトレンドの変化が早いので、毎月更新しています。
環境の整備とともに、使い方も広めていこうと考えています。現在、各部門から提案されている何百個ものユースケースを吟味し、全社展開した場合の検証を重ねています。(「軽い気持ちで使う、何度も試す デジタルネイティブ世代と生成AI」では日立製作所の若手社員の活用事例をご紹介しています)
GlobalLogicや日立ヴァンタラといった日立の海外子会社とも連携しています。国によってAIの使い方や規制の厳しさが異なるので、各地の情報を集めつつ、日立全体の方針を考えています。
こうした社内整備と並行して、お客さまにどんな生成AI関連のサービスを提供していけるか検討も進めています。
──「生成AIブーム」の先には、どのような未来があると予想しますか。
吉田: 2種類あると予想します。単なるブームで終わってしまって使われなくなるパターンと、ブームで終わらず浸透していくパターンです。日立の場合は、人間を中心にして、社内で真剣に使い浸透していくと信じています。
日立のデジタルソリューション「Lumada(ルマーダ)」と生成AIの融合も進んでいます。次の世代にナレッジが伝承されたり、蓄積されたナレッジから新たな発見がされたりすることによって、さらに強いソリューションが生まれていくでしょう。