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Femtech(フェムテック)とは?注目される三つの理由や企業の取り組み
近年では、女性特有の健康課題についてテクノロジーでの解決をめざす「Femtech(フェムテック)」が注目を集めており、多くの企業が取り組み始めています。
フェムテックは女性だけに関連するものと思う人もいるかもしれません。しかし、企業がフェムテックに取り組むことで、男性も含む従業員のウェルビーイング(肉体的・精神的・社会的に良好で満たされた状態)につながっていきます。
この記事では、フェムテックの意味や注目されている理由などを、分かりやすく説明します。
Femtech(フェムテック)とはどういう意味?
Femtech(フェムテック)とは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語です。具体的には、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する商品やサービスを指します。
女性特有の健康課題にはどんなものがある?【思春期~更年期】
フェムテックが解決を試みる「女性特有の健康課題」の分野は、月経や妊娠、不妊、産後ケア、更年期、婦人科系疾患、セクシャルウェルネスなど、多岐にわたります。
上の図のように、思春期や更年期など女性のライフステージが進むにつれて、起こり得る健康課題も徐々に変わっていきます。
それぞれの分野における具体的な課題は、次の通りです。
女性特有の健康課題分野 (フェムテック適用分野) |
具体的な課題の例 |
---|---|
月経 | 生理痛が重い、PMS(月経前症候群)で精神的な浮き沈みが激しい など |
妊娠 | 妊娠中のむくみやつわりなどの体調不良と、うまく向き合えない など |
不妊 | 不妊治療と仕事の両立が難しい、効果的な妊活のタイミングがわからない など |
産後ケア | 性ホルモンの分泌量が減ってゆらぎが大きくなることにより、イライラや気分の落ち込みなどの精神不安、体のほてり、動悸(どうき)や息切れなどの身体不調が起こり、つらい など |
婦人科系疾患 | 乳がんや子宮頸がん、子宮内膜症などへの罹患・治療への不安がある など |
セクシャルウェルネス | 性についても身体的、感情的、精神的に幸福な状態になりたい など |
これらの悩みをテクノロジーの力で解決する商品やサービスが「フェムテック」です。
フェムテックの商品・サービス例
フェムテックの商品やサービス例として、具体的には次のようなものが挙げられます。
女性特有の健康課題 | フェムテックの商品・サービス |
---|---|
月経 | 低用量ピルのオンライン処方 など |
妊娠 | 排卵日予測、受精卵の映像閲覧、陣痛トラッキング、分娩監視装置 など |
不妊 | 基礎体温の管理アプリ、不妊治療の管理、精子運動量チェック など |
産後ケア | オンライン産後ケア相談サービス など |
更年期 | 非ホルモン治療薬、専門家の相談・サポート、更年期特有のオンラインクリニック など |
婦人科系疾患 | 膣内環境チェック、痛くない乳がん検査 など |
セクシャルウェルネス | 性交痛軽減のための潤滑ジェル など |
これらの商品・サービスは、女性の健康とウェルビーイングをサポートすることを目的としています。
フェムテックが注目される三つの理由
経済産業省の調査によると、2025年には約2兆円/年もの経済効果が見込まれる※など、近年フェムテックは大きな注目を集めています。
フェムテックがここまで注目されるようになった理由として、主に次の三つがあります。
- 女性の社会進出
- テクノロジーの進化
- SNSの普及
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
※経済産業省(株式会社日立コンサルティング作成)|令和2年度産業経済研究委託事業 働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本に与える効果と課題に関する調査報告書
理由(1)女性の社会進出
女性の社会進出が進み、女性特有の健康課題を解決する「フェムテック」が注目されるようになりました。
女性が職場で最大限の力を発揮するには、PMS(月経前症候群)など女性特有の健康課題に関する悩みの解決が必須です。経済産業省の調査によると、PMSによる年間の労働損失は4,911億円※と試算されています。
この背景から、フェムテックによる女性特有の健康課題の解決は、社会全体にもプラスにはたらくと認識されるようになりました。その結果、従来はメタボ対策が中心であった健康経営にも、フェムテックを導入する企業が増えているのです。
理由(2)テクノロジーの進化
ビッグデータやAI(人工知能)、IoTなどテクノロジーの進化も、フェムテックが注目されるようになった理由の一つです。
テクノロジーの進化により、精密なデータ分析や、個々の健康状態に合わせたヘルスケアの提供などが可能になりました。
例えば生理周期の把握について、以前は基礎体温などを手書きでメモし、自己管理する必要がありました。しかし現在では、アプリに基礎体温や生理日を入力すれば、次の生理日や排卵日を予測し、自動的に知らせてくれます。
理由(3)SNSの普及
SNSの普及により、女性が健康課題に関する悩みをオープンに発信できる場が増えたことも、フェムテックが注目されるきっかけとなりました。
これまで「どのように生理と向き合っているのか」といった女性特有の話題はタブー視される傾向にあり、多くの女性が自身の健康課題について独りで悩んでいました。
しかし、SNSが普及したことで、女性が自身の健康課題について自由に発言しやすくなりました。これにより、女性特有の健康課題が社会全体の課題として認識され始め、フェムテックが注目されるようになったのです。
企業がフェムテックに取り組む重要性
近年では、福利厚生などの制度としてフェムテックを導入する企業も増えつつあります。
なぜ、企業によるフェムテックの取り組みは重要なのでしょうか。
企業がフェムテックを導入することで、妊娠・出産などのライフイベントによる「望まない離職」を防ぐことが可能になります。
フェムテックによってライフイベントと仕事を両立できれば、女性は自分らしく生きる「ウェルビーイング」を実現できるようになります。(「企業が取り組むべき『ウェルビーイング』とは? 幸福学の第一人者に聞く」では、ウェルビーイングの基礎知識について解説しています)
また、ライフイベントによる離職を防ぐことは、労働力の確保・維持につながり、職場マネジメントの改善も期待できます。
企業におけるフェムテックの導入例
フェムテックを取り入れる企業では、実際にどのような取り組みを行っているのでしょうか。代表的な導入例として、今回は次の四つを紹介します。
- 不妊治療など女性特有の健康課題に関するセミナー
- 産婦人科医によるオンライン診療
- フレックスタイム制度や在宅勤務制度、時間単位休暇
- 女性特有の健康課題について相談できる窓口の設置
不妊治療など女性特有の健康課題に関するセミナー
専門医によるセミナーの実施は、女性従業員が安心して活躍できる環境の構築につながります。
女性だけでなく、多くの男性従業員がセミナーに参加することで、社内全体にフェムテックや女性特有の健康課題の理解が浸透していきます。
産婦人科医によるオンライン診療
産業医によるオンライン診療では、月経や更年期などに関する症状について、オンラインで婦人科の診療を受けられ、薬剤を処方してもらうことが可能です。
平日は忙しくてなかなか産婦人科に通えない従業員も、スキマ時間に診療を受けられるメリットがあります。
フレックスタイム制度や在宅勤務制度、時間単位休暇
仕事とライフイベントの両立に向け、フレックス制度や在宅勤務制度、時間単位休暇の活用を促している企業もあります。
これらの制度は女性だけでなく、さまざまな事情を抱えた人が働きやすい環境を構築します。
女性特有の健康課題について相談できる窓口の設置
企業が取り組むフェムテックとして、専門家に相談できる窓口の設置も、例として挙げられます。(「従業員の悩みから生まれたフェムテック『リシテア/女性活躍支援サービス』」では、日立ソリューションズが提供する、女性従業員がいつでも気軽に看護師や助産師にオンライン相談できるサービスの開発に携わった、平田文香さんのインタビューを掲載しています)
この取り組みは、従業員が人には相談しづらいことや、症状で日頃ストレスに感じていることなどを気軽に相談できる機会を提供することを目的としています。
フェムテックはDEIの実現にもつながる
女性特有の健康課題をテクノロジーの力で解決する「フェムテック」は、一見「女性にだけメリットがあるもの」と思われやすいですが、実はそうではありません。
企業がフェムテックに積極的に取り組むことで、従業員同士がお互いを思いやる環境が育まれます。その結果、多様な働き方を認め合い、信頼関係を構築するきっかけとなり、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)の実現も期待されます。(「企業からの注目高まる『DEI』とは? わかりやすく解説」では、DEIの概要や多くの企業に注目される理由などを紹介しています)
女性だけに限らず、男性も含めて誰もが働きやすい環境にできれば、一人一人のパフォーマンスや定着率の向上など、企業にとって多くのメリットが期待できるでしょう。
監修者情報:
前田 裕斗
まえだ ゆうと
東京医科歯科大学 国際健康推進医学分野
経歴
川崎市立川崎病院臨床研修医、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科、国立成育医療研究センター産科フェローを経て現職
主な研究内容・論文
Maeda Y, et al. Factors affecting the provision of analgesia during childbirth, Japan. Bull World Health Organ. 2019 Sep 1;97(9):631-636. Maeda Y, et al. Association between perinatal anemia and postpartum depression: A prospective cohort study of Japanese women. Int J Gynaecol Obstet. 2020 Jan;148(1):48-52. その他lancetへのletter掲載多数
保有免許・資格
日本産科婦人科学会産婦人科専門医
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