Hitachi

DX成功の方程式はあるのか? 日立デジタルとPIVOTのCEOが対談

2023年10月25日 清水 美奈
HSIFで開かれたDXに関する対談セッション(写真:齋藤 大輔)

9月20~21日に開催された「Hitachi Social Innovation Forum(HSIF) 2023 JAPAN」。初日のセッションで、日立のデジタル戦略をリードする日立デジタルの谷口潤CEOとビジネス映像メディア PIVOTの佐々木紀彦CEOが対談しました。

テーマは「進化し続けるために企業はどうあるべきか~グローバルでのDX実践を通して~」。日立の事例を基に、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の勘所について語り合いました。

日本の競争力が低下した背景

セッションの冒頭で、世界から見た日本の競争力の変遷をまず振り返りました。国際経営開発研究所(IMD)の「世界競争力ランキング」で、日本の競争力がこの30年間、右肩下がりの傾向にあることを確認しました。

世界から見る日本の競争力

佐々木さんは、米グーグルなどのネット企業が台頭した1990年代後半に、日本の競争力が著しく低下したと指摘。その背景について、谷口さんの意見を求めました。

「日本が1位だった90年代前半に大学生でした」と話す谷口さんは、日本の強みは「目標が明確なときに着実に物事を進行できる」と分析します。「情報化の波が押し寄せて、変化が激しい時代になったとき、機敏に行動できなかったことが競争力の低下につながったのではないでしょうか」と述べました。

日立デジタル谷口CEO(右)とPIVOT佐々木CEO(左)
日立デジタル谷口CEO(右)とPIVOT佐々木CEO(左)(写真:齋藤 大輔)

日立デジタルが拠点を置く米・シリコンバレーでは、「クライアントに事業支援の提案をする際、我々が経験したことのない提案でも、能力を示すことで、ポジティブに受け止めてもらえることが多い」と打ち明けます。

一方、日本の企業は「経験があることを重視する傾向があります」といいます。「新しい取り組みの進め方の違いがDX実現への差につながっているのではないでしょうか」と示唆しました。

社会インフラとデジタルの融合

PIVOT佐々木CEO(写真:齋藤 大輔)

「日本では改革のイメージの日立ですが、シリコンバレーでどう評価されていますか」。佐々木さんはDXの中心地での評価に関心を寄せました。「『ユニークなポジションにいる』と言われます。社会インフラ事業を展開する一方、デジタル技術にフォーカスしている点が注目されてきています」と谷口さんは答えます。インフラを支える機器であるプロダクトやそれを運用するオペレーショナル・テクノロジー(OT)を基盤としたDXを日立の強みとして挙げました。

攻めのDXと守りのDX

佐々木さんは続けて問いかけます。「イノベーション、DXを進めるポイントは何でしょうか」。その問いに対して、新しい価値の創出である攻めのDXと、業務の改善や効率化の守りのDXの二つを谷口さんが紹介します。

攻めのDXの例では、日立グループのGlobalLogicと北米の電力会社との取り組みを挙げました。発電・電力販売は非常に強固なビジネスモデルであるものの、環境意識の高まりや新規制の登場で、新たな課題が生まれています。新しい課題に対応するには新しい価値の創出が必要です。GlobalLogicは電力会社の経営幹部たちと会社のビジョンやパーパスを再確認。その後、課題設定や意志決定のプロセスを改定するだけでなく、人財育成の方法にまでわたりサポートしました。

その上で、新たなサービスの創出に乗り出します。AIを活用した風力発電・太陽光発電の管理。デジタルを活用した送電網メンテナンス。再生エネルギーかどうか「見える化」して、電気利用者が使用する電気を選択できるサービス。電力会社はエネルギーサービスプロバイダーに変革しました。

守りのDXでは、データの基盤となるクラウド運用の事例を取り上げ、運用の最適化や自動化を支援するソリューションを説明しました。企業のデジタル活用はどんどん広がっています。そのため、開発、運用などそれぞれのチームが複雑に混ざり合い、企業内部でのリソースの分散が生じています。また、クラウド技術は変化が激しく、最新の技術を取り入れることも大変です。常に最新の技術を導入してもコストに悩む企業もあります。

そこで、日立はクラウドをどう使っているのか、運用状況の可視化をサポートします。可視化した状況を見ながら、AIで自動予測して管理・対策を取ることができます。

日立デジタル谷口CEO(写真:齋藤 大輔)

また、DXを強力に推進するには、デジタル人財の獲得や育成が不可欠です。日立は日本だけでなく、海外の工業・技術系大学とネットワークを構築し、教育プログラムに力を入れています。

「ユーザーインターフェイス(UI)やユーザー体験(UX)の開発は南米、組み込み系の開発は東ヨーロッパというように、地域ごとに得意とする技術が異なります」と谷口さん。ポーランドやルーマニア、ウルグアイといった国々にも、自ら足を運んで連携の強化や人財発掘に努めています。

「デジタルの力で貢献したい」

セッションの終盤には、生成AIを活用したデモンストレーションも披露されました。ChatGPTによる対談の要約がスクリーンに映し出されると、谷口さんは「キーワードを上手く紡いでいますね」と感心した様子です。

ChatGPTによる要約例(一部)

「ChatGPTの登場以来、生成AIの進化は目覚ましいです。以前はこんなにうまく要約できなかったが、わずか1年でその精度が上がっています。今後も驚異的なスピードで進化を遂げるはずです」と見通しを語りました。

生成AIで作成したアバター「デジタル谷口」もスクリーンに登場しました。日立のデジタル事業は、“Digital for all.”というメッセージを打ち出しています。デジタル谷口がメッセージに込めた想いを「デジタルの力と全ての経験を掛けて、人々の未来のために貢献したい」と語りました。

デジタル谷口

デジタルの分身が流暢に語りかける様子を見た佐々木さんは「私も番組の収録で忙しいので、ぜひ『デジタル佐々木』を作ってほしいです」と、会場の笑いを誘いました。

対談終了後の2人(写真:齋藤 大輔)

関連リンク