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日立、災害状況をAIで瞬時に把握する「映像解析システム」を開発
日立製作所は2月19日、地震や水害などの大規模な災害の状況を人工知能(AI)によって迅速に把握できる「映像解析の基礎技術」を開発したと発表しました。ドローンやヘリコプターで空撮した地上の映像をAIで解析し、被害状況を高い精度で把握することで、人命救助や被害を減らす対策の立案に役立てます。
AIを活用して災害状況を瞬時に把握
近年、地球温暖化による気象変動や都市化に伴って、世界各地で自然災害による大きな被害が発生しています。日本でも、東日本大震災(2011年)や熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018)など、大規模な水害や土砂崩れ、建物倒壊が起き、甚大な被害が生じています。
本プロジェクトを担当した日立製作所ルマーダデータサイエンスラボの吉永智明さんは、「この技術が開発されているさなかにも、台風や地震による災害が日本各地で起こり、一刻も早く実用化しなければという思いを強く持ちました」と語ります。今回の技術でめざしたのは、「AIによる被害状況の正確・迅速な把握」です。
災害が起こった直後には、レスキュー隊が速やかに災害現場を把握し、被災者を避難誘導することが急務となります。そのためには、広範囲にわたる被災地域を俯瞰的にとらえ、人が残っている可能性がある倒壊した住宅や車などを迅速に見つけ出さなければなりません。
その後も効率的に被災者を支援し、復旧を進めるためには、寸断されている道路や崩落した橋梁がないかなど、被災地の状況を正確に把握することが求められます。
今回開発した技術は、ドローンやヘリコプターで撮影した災害地の映像をAIに解析させることで、救助に向かうべき対象を瞬時に認識し、地すべりや崩落が起きている場所などを発見することができます。
災害映像の解析で世界トップレベルの精度を実現
開発にあたって、乗り越えなければならなかったハードルについて、同社の岡崎聡一郎さんは、次のように語ります。
「災害現場で認識すべき対象は、地滑りや洪水といった大きなものから、車や船といった小さなものまで様々です。撮影した映像の中に、それらが複数存在しているときでも、AIが正確に認識できるようにしなければいけないという課題がありました」
この課題を克服するために、岡崎さんたちは、広い範囲に注目して災害状況を把握する認識モデルと、狭い範囲に注目して対象を探し出す認識モデルを組み合わせ、広範囲の被災状況と人が目視では見つけにくい小さなものの両方を認識できるようにしました。
また、大規模な災害はそう頻繁に起こるものではないため、AIの学習に使えるデータが少ないという課題もありました。
「地滑りなどデータ数が少ないサンプルを重視してAIが学習するようにすることで、データ数が少ないものについても高精度に認識できるようにしました」(岡崎さん)
この技術は、2020年4月から7月にかけて行われたアメリカの国立標準技術研究所(NIST)が主催した「災害映像解析」のコンペティションで、世界トップレベルの認識精度を達成しました。
自治体の救助活動や保険会社の被害算定での活用を期待
災害の発生直後、被災地域の自治体は、正確・迅速に被災状況を把握し、一刻も早く人命を救助することが求められます。大規模な地震や河川の氾濫などで被災地が広範囲にわたったとき、本技術を使えば、ドローンによる空撮映像を解析することで、すぐさま救助に向かうべき場所をピンポイントで見つけることができます。
また災害後には、保険会社が調査員を現地に派遣して被害状況を調査しますが、本技術によって、重点的に調査を行うエリアを事前に確認することが可能になります。
本技術の展望について、吉永さんは次のように語っています。
「被災地の映像からAIが自動的に災害状況を認識する、今後の活用に注目が集まっている技術です。この技術を自治体やさまざまなパートナー企業とともに広めていくことで、災害時に一人でも多くの人の命を救い、人々の安全・安心な暮らしの実現に貢献していきたいと思います」