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在宅勤務でもリアルなコミュニケーションを実現 「仮想オフィスサービス」販売

日立ソリューションズ・クリエイトは2022年3月10日、在宅勤務でも、オフィスに出社しているかのように社内の人々とコミュニケーションを取ることができる「仮想オフィスサービス」を開発し、4月から提供を開始することを発表しました。在宅勤務とリアル出社が共存する「ニューノーマル時代」のコミュニケーションツールとして普及をめざします。

在宅勤務の課題を仮想オフィスで解決

日立ソリューションズ・クリエイトの左近允晃さん

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業でテレワークが進んでいます。東京都によると、都内企業のテレワーク実施率について、2020年3月は24.0%でしたが、2022年1月には57.3%まで上昇しています。

その一方で、社員同士がオフィスで直接顔を合わす機会が減ったことで、「仕事の合間の雑談や相談など気軽なコミュニケーションが生まれにくい」という課題が浮上しています。

この課題を解決するために、日立ソリューションズ・クリエイトは、インターネット上にオフィスを構築する「仮想オフィス」を開発。2022年4月から、企業向けに提供が開始されます。社員はあたかもリアルな会社に出勤するかのように仮想オフィスにアクセスし、同僚と同じフロアで仕事をしているような感覚を持つことができます。

最近では、3次元の仮想空間「メタバース」という言葉が注目されていますが、同社の仮想オフィスは、パソコンへの負荷が比較的小さい、平面的な「2次元マップ」を主に採用。パソコンの性能によって、動作しにくくなることを防ぎたい考えです。

デジタルトランスフォーメーション事業部で仮想オフィスの開発を担当した左近允晃さんは、「雑談の延長で仕事の話をしたり、仕事の延長で雑談が生じたりというのが、自然なコミュニケーションの姿です。仮想オフィスでは、両者の間をスムーズに行き来できるように工夫しました」と話します。

多様な機能を有する仮想オフィス

【デモ動画】仮想オフィスの日常を見る

同社の仮想オフィスには複数のフロアがあり、いかにもオフィス然とした佇まいのフロアもあれば、プールが併設されたフロアやリゾート感たっぷりの海辺のフロアもあり、その日の気分に合わせて、自由に選ぶことができます。

また、社員同士のコミュニケーションを促すため、座席も自由に選ぶことができるようにしました。

「リアルオフィスでは、隣に座っている人と気楽に話しやすいと思います。仮想オフィスでも同様で、話したい人と席が隣だと、気軽なコミュニケーションが生まれやすいです」(左近允さん)

顔アイコンにマウスをのせると表示される社員の情報

また、コミュニケーションツール「Microsoft Teams」や「Microsoft Outlook」と連携しているのも大きな特徴です。

仮想オフィス上にいる同僚たちの顔アイコンにマウスをのせると、「連絡可能」や「取り込み中」など、その社員の情報が表示され、今どんな状態なのか、今日はどんな予定なのかといったことを確認することができます。

さらに、「話す」ボタンを押すと即座に「Teamsチャット」が立ち上がり、コミュニケーションが始められます。

「コミュニケーションを取る直前に、相手の様子を確認する。そのうえで、簡単にTeamsを呼び出して、直感的に操作できるように意識しました」(左近允さん)

チームボードでは、同僚の様子を把握することなどが可能

このほか、所属するチームごとに「チームボード」が用意されていて、チームメンバーの状況を一覧で把握したり、掲示板にメッセージを書き込んだりできるようになっています。これは「チームで作業している感覚がほしい」という要望に応えた機能です。

SNSでお馴染みの「いいね」ボタンや感情アイコン、ちょっとした会話のきっかけになる吹き出しコメントや雑談ルームなど、コミュニケーションを助ける「小物」も充実していて、社員同士が気軽に声を掛け合えるようになっています。

「挨拶や雑談から濃密な仕事の会話まで、さまざまなレベルのコミュニケーションができるように、いくつもの機能や場を多層で用意しているのが、このツールの特色だと思います」(左近允さん)

偶発的コミュニケーションを生む工夫

開発にあたって重視したのは、いかにして在宅勤務中に「偶発的なコミュニケーション」を生み出すか、です。

「オフィスの廊下や食堂などで同僚たちと交わす挨拶や雑談は、一見、業務の遂行に不要なものに見えます。しかし実際には、その後のチームプレイを円滑にしたり、仕事のなかに別の視点を持ち込むきっかけになったりします。在宅勤務が定着する中で、この『偶発的なコミュニケーション』が意外に大切なものであると気付いたのです」(左近允さん)

開発で苦心した点については、「『気軽さと便利さ』をどう実現させるかでした」と振り返ります。

「もともと弊社では、コミュニケーションツールとしてTeamsを使用していました。Teamsは優れたツールですが、基本的に特定の相手と連絡を取るためのサービスで、偶発的なコミュニケーションは生まれません。また、コンタクトをとる前に相手の顔が見えないので、相手が現在どういう状況なのか把握しづらいという問題がありました」(左近允さん)

こうした課題のもとに、Teamsをコミュニケーションの核として組み入れる形をとりながら、メンバーの状態を確認するなどの周辺機能を充実させて、偶発的なコミュニケーションが生まれやすいようにしたのです。

同社の仮想オフィスサービスは2021年末から、社内での運用が始まっています。実際に使ってみてどう感じているか、デジタルトランスフォーメーション事業部の藤本智子さんは、次のように話しています。

「コロナ禍で在宅勤務になって以降、1日に何件も会議があっても『仕事の話だけで雑談なし』という状況が続き、気軽に会話ができない状況にストレスを感じていました。仮想オフィスのおかげで、雑談がしやすくなり、仕事も進めやすくなりました。」

仮想オフィスの場合、リアルなオフィスと違って、現実の空間の隔たりが関係ありません。藤本さんは、「拠点が離れてしまった同僚とも仮想オフィスで会話できるなど、むしろリアルに勝っている点もあるのがいいですね」と話しています。

「離れて働く人たちをつなぐ」

仮想オフィスには「3次元のパノラマビュー」も

左近允さんは同サービスの強みとして「社員数が1,000人を超えるような大企業に向いていること」を挙げます。

「この仮想オフィスサービスは、社員間のスムーズな会話を実現することで、チームワークの向上を支援します。さらに、人事システムのデータと連携することで、人事異動や中途採用などの情報を速やかに反映できるため、大規模な組織での運用に適しています。弊社のサービスは1万2,000人の同時アクセスにも対応できることを確認しており、大規模な組織でこそ効果を発揮できると考えています」

同社の仮想オフィスは、2次元のマップがメインですが、3次元の「パノラマビュー」モードもサブで利用できます。左近允さんは、「将来的にはVRデバイスなどのウェアラブル端末を着用して、3次元の仮想空間で仕事をする世界も想定されるので、それに備えた研究は続けていきたい」と話しています。

今後、コロナ禍が収束していったとしても、リモートワークの活用はある程度、定着していくことが予想されています。こうしたニューノーマル時代の働き方を実現するための新たなツールとして、仮想オフィスへの期待が高まっています。

「在宅勤務やコワーキングスペース、ワ―ケーション施設など、今後は働く場所の多様性が求められる社会になっていくと考えています。さまざまな場所で離れて働く人たちをつなぐコミュニケーションツールとして、仮想オフィスを使っていただきたいですね」(左近允さん)