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サステナブルな未来を実現する「トランジション」とは? 環境フォーラムで専門家たちが議論

2021年7月2日 河畠 大四
専門家らが「トランジション」についてディスカッションした

気候変動や生物多様性の危機に直面する中、私たちはこの問題にどう立ち向かい、持続可能な未来をどう構築していくのか――。その糸口を探るため、日立製作所は6月22日、日本、イギリス、アメリカ在住の専門家をオンラインで結んで、「持続可能な未来へのトランジション」と題した環境フォーラムを開催しました。

「トランジション」という考え方

ディスカッションの中心テーマに据えられたのが、英語で「移行」や「移り変わり」を意味する、「トランジション(transition)」という考え方です。

日立製作所はこのフォーラムの開催に先立ち、デザインスタジオTakramと共同で「サステナブルな未来へのトランジション」に関する調査を世界規模で実施しました。「化石燃料から再生可能エネルギーへ」「線形から循環型経済へ」など、9つのトランジションに着目。126の個人や国際団体をリサーチし、12人のサステナビリティの専門家と対話を重ねて問題を分析しました。

調査報告はウェブサイト別窓で開くで公表されています。リサーチを担当したTakramロンドンの牛込陽介さんは、フォーラムの冒頭で「トランジション」の意味について、次のように説明しました。

「いま世界では、SDGsを筆頭に、『サステナブルな未来を作っていかなくてはいけない』と官民挙げて叫んでいます。しかし、気候変動という巨大で複雑なスケールの問題に対して、全員が共有できる同一のイメージを持つことは、たいへん難しいのが実情です。そこで私たちは、問題を一歩一歩確実に前に進めていくために、『トランジション』という考え方にフォーカスしました。サステナブルな未来の社会を実現するには、前に向かって確実に変化していく具体的な取り組みと、そのプロセスが重要だからです」

長期的なゴールと統合的なビジョンが必要

牛込さんの発言を踏まえて、ディスカッションは進行しました。他にゲストとして登壇したのは、東京大学未来ビジョン研究センター教授の高村ゆかりさん、アメリカのカーネギーメロン大学トランジションデザイン研究所所長のテリー・アーウィンさん、日立製作所研究開発グループの技師長で環境プロジェクトリーダーの鈴木朋子さん。

モデレーターは、今回の調査を担当した日立製作所の佐々木剛二さんが務め、視聴者の質問も交えながら活発な議論を展開しました。

最初の発表を行った東京大学の高村さんは、自身が専門とする国際法および環境法の観点から環境問題に向き合ってきました。高村さんはトランジションを進める上で、長期的な戦略を持つことの必要性を強調します。

「気候変動の問題の根本には、私たち人類が、ビジネス、各国の政策、研究などにおいて、短期的な成果を追求してきたことがあります。だからこそ、トランジションは決して急激で破壊的な変化をもたらすものであってはならないと考えます。めざすべき社会に変わるためには、長期的なゴールと、統合的なビジョンが世界で共有されることが必要です」(高村さん)

「トランジション」には9つの種類がある

時間をかけてトランジションをデザインする

カーネギーメロン大学でデザイン学部の教授を務めるアーウィンさんは、「現代社会には、環境問題の他にも、犯罪、貧困、社会の二極化、テロ、国際的なパンデミックなど、様々な問題が広がっている。それらは長い時間をかけて大きな問題となっただけに、一朝一夕に解決するのは難しい」と指摘した上で、「だからこそ、それらの問題を解決するには、同じぐらいの時間をかけてトランジションをデザインすることが重要になる」と解説しました。

「将来の大きな社会の変化も、必ず現時点の小さな変化が起点となっています。今、私たちの組織やコミュニティに起きている小さな変化の芽を育てることが、社会全体の移行の軌跡へとつながっていくのです。トランジションデザインは、特定領域の学者や専門家だけが担うのではなく、あらゆる領域のステークホルダーが協力することが大切になるでしょう」(アーウィンさん)

日立製作所の鈴木さんは入社以来、一貫して環境に関わる研究を続けてきました。発表のはじめに、スペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセットの「私は、私と私の環境である」という言葉を引用し、日立が事業を通じてどのように持続可能な社会の構築に貢献していくかを語りました。

「世界中の人々の『生活の質を高めたい』という活動が、結果的に生物多様性や環境に悪影響を及ぼし、逆に『生活の質』を脅かしつつあるのが現在の状況です。日立はそうした現状を踏まえ、2050年には、2010年比で事業における二酸化炭素の排出量の80%削減を実現するとともに、人と技術の力で社会全体のカーボンニュートラルに貢献する取り組みを続けていきます」(鈴木さん)

強い技術を持つ企業のジレンマ

モデレーターの佐々木さんは、フォーラム視聴者の多くが製造業に関連する仕事に就いていることに注目し、「これからの産業界に求められることは何か」とパネリストに問いかけました。

これに対して高村さんは、「各企業が現在の技術でCO2の排出を最大限減らしていくことと同時に、めざす世界への移行に向けて、新たな大きなマーケットを作っていくことが大切になると思います」と述べます。

「日本の企業の多くは強い技術を持っていますが、経営学者のクリステンセンは主著『イノベーションのジレンマ』のなかで『強い技術を持つ組織であるほど、新しい市場に挑むのを躊躇し、対応が遅れる可能性がある』と警告しています。脱炭素化についても、日本企業が世界の市場のなかで販路や活動を拡大していくと同時に、大きく変わりつつ社会の変化にどう対応していくか、戦略を持つことが非常に重要です」(高村さん)

持続可能な社会の実現に向けて

トランジションは利益につながるか?

視聴者から寄せられた質問には、「トランジションやサステナビリティの話をすると、いつも『それは儲かるのか?』と言われ、何も言えなくなってしまう」という率直なコメントもありました。それに対しアーウィンさんは「1,000万ドル級の大きな質問ですね」と笑って、こう答えました。

「企業を存続させて、従業員の生活を支えるためにも、利益は必ず求められます。しかし現在進行する気候変動の問題は、企業で働く人々全員、その子孫の生命に関わることです。だからこそ、短期的な利益をどれくらい確保した上で、どれだけ長期的に投資をしないといけないかを考える必要があるのです。短期的な利益の追求は少しあとに回しても、地域や地球のことを考えることが大切になるでしょう」(アーウィンさん)

動き始めた若い世代に期待

最後に、登壇者が今後の展望を述べました。高村さんは「変化の中でも、企業が自分の意志で変わっていける方法論としてトランジションの議論を深めていきたい」と抱負を口にしました。

アーウィンさんは「考えるべきことは、今まで続いてきた社会、経済、政治的パラダイムを、どうすれば穏やかに移行できるかだと思います。文化の多様性を認めながらも、世界の人々が『コスモポリタン』(地球人)として生きるという、新しいパラダイムを作らないといけない」と指摘しました。

鈴木さんは、日立の創業者・小平浪平が日立の中に学校を作り、そこから他社へも多数の人材が輩出されていったことを紹介し、短期的なメリットではなく社会に長期的な利益をもたらす「利他の精神」が重要であることを語りました。

フォーラムを通じて語られた、持続可能な未来へ向けたパラダイムの転換。モデレーターの佐々木さんは、次のような言葉でフォーラムを締めくくりました。

「地球を、自分たちの住みかを守る行動を継続していく。そんな取り組みを始める、私よりも若い世代が、世界中に生まれつつあります。トランジションは、これからの時代を生きる世代にとって、新しくエキサイティングな挑戦だと感じています」

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環境フォーラムで専門家たちが議論


専門家らが「トランジション」についてディスカッションした

気候変動や生物多様性の危機に直面する中、私たちはこの問題にどう立ち向かい、持続可能な未来をどう構築していくのか――。その糸口を探るため、日立製作所は6月22日、日本、イギリス、アメリカ在住の専門家をオンラインで結んで、「持続可能な未来へのトランジション」と題した環境フォーラムを開催しました。

「トランジション」という考え方

ディスカッションの中心テーマに据えられたのが、英語で「移行」や「移り変わり」を意味する、「トランジション(transition)」という考え方です。

日立製作所はこのフォーラムの開催に先立ち、デザインスタジオTakramと共同で「サステナブルな未来へのトランジション」に関する調査を世界規模で実施しました。「化石燃料から再生可能エネルギーへ」「線形から循環型経済へ」など、9つのトランジションに着目。126の個人や国際団体をリサーチし、12人のサステナビリティの専門家と対話を重ねて問題を分析しました。

調査報告はウェブサイトで公表されています。リサーチを担当したTakramロンドンの牛込陽介さんは、フォーラムの冒頭で「トランジション」の意味について、次のように説明しました。

「いま世界では、SDGsを筆頭に、『サステナブルな未来を作っていかなくてはいけない』と官民挙げて叫んでいます。しかし、気候変動という巨大で複雑なスケールの問題に対して、全員が共有できる同一のイメージを持つことは、たいへん難しいのが実情です。そこで私たちは、問題を一歩一歩確実に前に進めていくために、『トランジション』という考え方にフォーカスしました。サステナブルな未来の社会を実現するには、前に向かって確実に変化していく具体的な取り組みと、そのプロセスが重要だからです」

長期的なゴールと統合的なビジョンが必要

牛込さんの発言を踏まえて、ディスカッションは進行しました。他にゲストとして登壇したのは、東京大学未来ビジョン研究センター教授の高村ゆかりさん、アメリカのカーネギーメロン大学トランジションデザイン研究所所長のテリー・アーウィンさん、日立製作所研究開発グループの技師長で環境プロジェクトリーダーの鈴木朋子さん。

モデレーターは、今回の調査を担当した日立製作所の佐々木剛二さんが務め、視聴者の質問も交えながら活発な議論を展開しました。

最初の発表を行った東京大学の高村さんは、自身が専門とする国際法および環境法の観点から環境問題に向き合ってきました。高村さんはトランジションを進める上で、長期的な戦略を持つことの必要性を強調します。

「気候変動の問題の根本には、私たち人類が、ビジネス、各国の政策、研究などにおいて、短期的な成果を追求してきたことがあります。だからこそ、トランジションは決して急激で破壊的な変化をもたらすものであってはならないと考えます。めざすべき社会に変わるためには、長期的なゴールと、統合的なビジョンが世界で共有されることが必要です」(高村さん)


「トランジション」には9つの種類がある

時間をかけてトランジションをデザインする

カーネギーメロン大学でデザイン学部の教授を務めるアーウィンさんは、「現代社会には、環境問題の他にも、犯罪、貧困、社会の二極化、テロ、国際的なパンデミックなど、様々な問題が広がっている。それらは長い時間をかけて大きな問題となっただけに、一朝一夕に解決するのは難しい」と指摘した上で、「だからこそ、それらの問題を解決するには、同じぐらいの時間をかけてトランジションをデザインすることが重要になる」と解説しました。

「将来の大きな社会の変化も、必ず現時点の小さな変化が起点となっています。今、私たちの組織やコミュニティに起きている小さな変化の芽を育てることが、社会全体の移行の軌跡へとつながっていくのです。トランジションデザインは、特定領域の学者や専門家だけが担うのではなく、あらゆる領域のステークホルダーが協力することが大切になるでしょう」(アーウィンさん)

日立製作所の鈴木さんは入社以来、一貫して環境に関わる研究を続けてきました。発表のはじめに、スペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセットの「私は、私と私の環境である」という言葉を引用し、日立が事業を通じてどのように持続可能な社会の構築に貢献していくかを語りました。

「世界中の人々の『生活の質を高めたい』という活動が、結果的に生物多様性や環境に悪影響を及ぼし、逆に『生活の質』を脅かしつつあるのが現在の状況です。日立はそうした現状を踏まえ、2050年には、2010年比で事業における二酸化炭素の排出量の80%削減を実現するとともに、人と技術の力で社会全体のカーボンニュートラルに貢献する取り組みを続けていきます」(鈴木さん)

強い技術を持つ企業のジレンマ

モデレーターの佐々木さんは、フォーラム視聴者の多くが製造業に関連する仕事に就いていることに注目し、「これからの産業界に求められることは何か」とパネリストに問いかけました。

これに対して高村さんは、「各企業が現在の技術でCO2の排出を最大限減らしていくことと同時に、めざす世界への移行に向けて、新たな大きなマーケットを作っていくことが大切になると思います」と述べます。

「日本の企業の多くは強い技術を持っていますが、経営学者のクリステンセンは主著『イノベーションのジレンマ』のなかで『強い技術を持つ組織であるほど、新しい市場に挑むのを躊躇し、対応が遅れる可能性がある』と警告しています。脱炭素化についても、日本企業が世界の市場のなかで販路や活動を拡大していくと同時に、大きく変わりつつ社会の変化にどう対応していくか、戦略を持つことが非常に重要です」(高村さん)


持続可能な社会の実現に向けて

トランジションは利益につながるか?

視聴者から寄せられた質問には、「トランジションやサステナビリティの話をすると、いつも『それは儲かるのか?』と言われ、何も言えなくなってしまう」という率直なコメントもありました。それに対しアーウィンさんは「1,000万ドル級の大きな質問ですね」と笑って、こう答えました。

「企業を存続させて、従業員の生活を支えるためにも、利益は必ず求められます。しかし現在進行する気候変動の問題は、企業で働く人々全員、その子孫の生命に関わることです。だからこそ、短期的な利益をどれくらい確保した上で、どれだけ長期的に投資をしないといけないかを考える必要があるのです。短期的な利益の追求は少しあとに回しても、地域や地球のことを考えることが大切になるでしょう」(アーウィンさん)

動き始めた若い世代に期待

最後に、登壇者が今後の展望を述べました。高村さんは「変化の中でも、企業が自分の意志で変わっていける方法論としてトランジションの議論を深めていきたい」と抱負を口にしました。

アーウィンさんは「考えるべきことは、今まで続いてきた社会、経済、政治的パラダイムを、どうすれば穏やかに移行できるかだと思います。文化の多様性を認めながらも、世界の人々が『コスモポリタン』(地球人)として生きるという、新しいパラダイムを作らないといけない」と指摘しました。

鈴木さんは、日立の創業者・小平浪平が日立の中に学校を作り、そこから他社へも多数の人材が輩出されていったことを紹介し、短期的なメリットではなく社会に長期的な利益をもたらす「利他の精神」が重要であることを語りました。

フォーラムを通じて語られた、持続可能な未来へ向けたパラダイムの転換。モデレーターの佐々木さんは、次のような言葉でフォーラムを締めくくりました。

「地球を、自分たちの住みかを守る行動を継続していく。そんな取り組みを始める、私よりも若い世代が、世界中に生まれつつあります。トランジションは、これからの時代を生きる世代にとって、新しくエキサイティングな挑戦だと感じています」

環境オンラインフォーラムの様子を動画で見る

  • 取材・執筆: 河畠 大四
  • 公開日: 2021年7月2日