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オンラインで行政手続きを可能に、日立の「汎用デジタル窓口」に高まる期待

日立製作所は、行政手続きや自治体職員への相談が、オンライン上でできるサービスを開発しており、その実証実験を、2021年から複数の自治体と共同で行っています。

このサービスは、市区町村の役所から離れた場所で、オンラインによる行政手続きなどをできるようにするもの。実証実験は、公民館などで行われ、大型のディスプレイやタブレット端末が使われました。

行政サービスのデジタル化が進む中、その利用が難しい高齢者や外国人などの利便性を高めるほか、自治体の業務効率化につながることが期待されています。

参加者の8割以上が前向きな回答

福岡市で行われた「リモート窓口」の実証実験のイメージ図

福岡市で行われた実証実験では、オンライン上で自治体職員の顔を見ながら、住民票などの各種申請手続きや税などに関する相談が行えるかを試しました。机上には手元を映すための書画カメラが設置されていて、住民は手元にある文書内の具体的な場所を指し示しながら、簡単に相談箇所を伝えることができます。

プロジェクトを率いた日立製作所の今井昭宏さんは、デジタル化されたサービスに不慣れな高齢者でも扱いやすいように工夫したと話します。

「高齢者でも利用しやすいよう、机上にあるタブレット端末に表示された相談内容をタッチするだけで、その後の操作はほとんど不要にしています。また、大きなディスプレイを使っており、職員の姿や書類がほぼ実物大で映し出され、書類にマーカーで印をつけたりすることができます。このため、実際に目の前で会話しているような体験ができ、利用者に安心感を与えられると考えています」

2021年から、複数の自治体で実証実験が行われていて、これまでに、住民や自治体職員などあわせて約300人が参加。そのうち8割以上が前向きな回答をしています。実証実験を担当した日立製作所の池田悠南さんは、利用者から思った以上の反響が寄せられたと言います。

「『利用しやすい』や『分かりやすい』のほか、新型コロナウイルスの感染対策に有効という声が複数寄せられました。コロナ禍に行政手続きで役所まで直接行くことは避けたい、と感じる方もいらっしゃるので、そういった方からも『非接触で行政手続きが行うことができ、対面で行う時と比べてもサービスに遜色がない』という感想が寄せられています」

デジタル化で取り残された人達を救う

インタビューに応じる日立製作所の今井昭宏さん

同サービスを開発することになったきっかけについて、今井さんは、「もの凄く根本に戻ると、人口減少と高齢化です」と振り返ります。自治体では従来、各窓口に職員を配置して来訪者に常時対応することが可能でした。しかし、人口減少の影響を受けて、同様のサービスを行うことが難しくなってきています。こうした課題を解決するために、遠隔で住民対応ができる同サービスの構想が始まりました。

また、自治体では、人手不足に対応しようと行政サービスのデジタル化も加速しています。こうした行政サービスは自治体と住民、双方の利便性を高めますが、今井さんは「多くの高齢者がデジタル化の恩恵を享受できるような環境が整えられていない」と指摘します。

「デジタル化されたサービスは、多くがスマホで行うことを前提としています。しかし、高齢者にとって、スマホの小さい画面を見ながら手続きをするのは簡単ではありません。行政サービスがデジタル化され、便利に感じる人がいる一方で、高齢者が取り残されてしまうことに自治体も悩んでいます。私たちはそうした人たちを救いたいと思いました」

こうした思いは開発の細部に生かされています。その1つが、高解像度表示機能です。

「通常のウェブ会議システムなどでは、大きなディスプレイを用いると、画面に映し出される書類や顔がぼやけてしまい、自治体職員と住民のやり取りが滞ってしまうことや、住民に不安感を与えてしまう可能性があります。しかし、我々が開発しているサービスでは、大きなディスプレイでも、書類や顔をハッキリと表示させ、画面に映る人がまるで目の前にいるようなリアリティを再現します。これにより、遠隔でありながら対面しているかのように、相談や手続きができる環境になっています」(今井さん)

行政だけでなく民間でも活用へ

オンライン取材に応じた日立製作所の池田悠南さん

現在複数の自治体で同サービスの実証実験が進められていますが、行政サービスだけではなく、民間サービスへの活用も検討されています。

「窓口対応の人手不足や、高齢者などデジタルに不慣れな方に向けたサービスの利便性向上といった課題は、民間企業も抱えています。このため、今後は同サービスを民間企業でも使えるようにしていきたいと考えており、まずは金融機関、医療関係者などと協議を進めているところです」(池田さん)

デジタルサービスの利用が難しい人たちを救うだけでなく、さまざまな活用方法が検討されている同サービス。今井さんは、今後の展望について次のように話しています。

「日立は住民に寄り添ったスマートシティの実現や、地域のデジタル化に向けて取り組んでいます。今回のサービスはその先駆けになります。将来的には官民双方のサービスを利用できる『汎用デジタル窓口』へと発展させていきたいと思っています。私たちの生活の基盤は住んでいる地域にあり、官民が連携して住民みんなの生活が豊かになる世界を作っていきたいと思います」