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需要予測を活用した「自動発注システム」でスーパーをDX 業務効率化を実現

2023年3月1日 いからし ひろき

少子高齢化に伴い労働力人口が減少する中、スーパーマーケットではデジタル技術を活用して、省人化を進める動きが加速しています。関東地方に182店舗を展開するヤオコーもその一つ。熟練担当者による属人的な発注業務を自動化することで、業務効率を飛躍的に上げています。

同社が導入したのは、日立製作所が提供する「自動発注システム」。商品の需要を予測し、それをもとに適切な発注量を自動的に割り出すもので、小売業のDXを加速させることに期待が高まっています。どのようなシステムなのか、ヤオコーと日立の担当者に話を聞きました。

需要を予測して商品を自動発注

自動発注システムは、商品の陳列を決める「棚割システム」や在庫管理などを行う「基幹システム」などと連携するほか、曜日や季節、周辺環境などのデータと連携して高度な需要予測を行います。その予測に基づいて、適切な発注量が提案され、それを見た店舗の担当者は必要に応じて調整を加えた上で発注を行います。

商品が棚に並んだ後は、実際に売れた数の販売データが全店舗のデータベースに蓄積され、次の需要予測のためにフィードバックされます。こうして毎日更新されるデータを蓄積しながら、予測と提案を繰り返すことで精度を高めていきます。

自動発注システムは、総合スーパーや大手小売店などに導入実績がある日立の「 Hitachi Digital Solution for Retail/需要予測型自動発注サービス」をベースにしており、オプティマムアーキテクト社の「Category Profit Management(CPM)」という先端技術を活用しています。

属人的な発注業務をDX

(写真提供:株式会社ヤオコー)

このシステムを2022年11月に導入したのが、関東地方を中心にスーパーマーケットを展開する株式会社ヤオコーです。

これまでは、熟練の担当者が手作業で発注を行っていましたが、業務が属人化してしまうという問題がありました。こうした課題を解決するために、ヤオコーは以前、他社製の自動発注システムを導入。ヤオコーのドライ食品担当部長の中島隆行さんは、業務の属人化を解消するほか、ムダな発注をなくすことで、業務効率の改善や利益の増加につなげようと考えたといいます。

「属人的な発注になっていたので、将来起こりうる人手不足にも対応する必要があると考え、発注を自動化・最適化することにしました」

しかし、導入した自動発注システムは、売れたものを売れた数だけ発注する「セルワンバイワン方式」のため、需要変動に対応しておらず、欠品が出ることで買い物客の利便性を損なってしまうことが分かりました。さらに、発注精度についても期待通りのものにはなりませんでした。

そこで数社によるコンペを実施。需要を予測して発注が行われる「需要予測型発注方式」の自動発注システムを提供し、他社での導入実績もあった日立が、開発業務を受託することになりました。

開発が始まったのは、2020年の12月、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃でした。開発を担当した日立の音川芳賢さんは、当時をこう振り返ります。

「顔合わせをしてすぐ非常事態宣言が出てしまったので、チームの打ち合わせは基本的にリモートで行いました。物理的な制限がある中で、いかにメンバー同士が意思疎通をしていくかが最初の課題でした」

課題となった「チューニング」

日立製作所の流通システム本部の音川芳賢さん(写真:野崎航正)

こうして始まった自動発注システムの開発ですが、数々の課題に直面しました。その一つが、細かなチューニング(調整作業)です。

スーパーにおいて、商品の発注量を決めるのに参考とする要素は多岐に渡ります。例えば、曜日や季節、在庫量、廃棄量、周辺環境、特売や値引きといったイベントの有無など、それら全てを考慮しなければなりません。

特に「日配(にっぱい)」と呼ばれるパンや牛乳などの食品は、消費期限との兼ね合いもあり、「気の遠くなるようなチューニング(調整作業)を繰り返す必要があった」(日立・音川さん)といいます。

さらに、チューニングをより難しくさせたのが、ヤオコー固有の店舗事情です。開発プロジェクトを率いたヤオコーの中島さんは、こう話します。

「当社は“個店主義”といって、182店舗それぞれに特徴を持たせています。売り場面積も350坪から900坪まで幅広く、売上も店によって5倍くらいの差があります。場所によっても、駅前で夕方以降に売れる店もあれば、住宅地で土日に大量に売れる店もある。まさに百店百様です。今回導入したシステムが、果たしてそうした弊社独自の事情にフィットするかどうか、当初は不安でした」

2021年6月には、2つの店舗で実証実験を開始。その結果をシステムの改善に反映させ、精度を高めていきました。打ち合わせは毎週に及び、そのつど修正を加えて、新しいバージョンのリリースが繰り返されました。効果測定をしてから、速やかにフィードバックする、いわゆる「アジャイル開発」です。その期間は約2年半にも及びました。

「3歩進んで2歩下がる、の繰り返しでしたね。チューニングしたものが、思っていたものと違うということも多々ありましたが、社内の関係部署や日立さんとワンチームになり、そのギャップを埋めていけたのが大きいと思います」(ヤオコー・中島さん)

生産性向上と食品ロス削減を実現

株式会社ヤオコーのグロッサリー部の中島隆行さん(写真:野崎航正)

こうした困難を乗り越え、ついに完成した自動発注システム。導入した店舗での「自動化率(自動発注システムの提案がそのまま採用される比率)」は飛躍的に向上し、一般食品や雑貨などを扱うグロッサリー部門では、従来システムの65%から98%に向上しました。

さらに実証実験を行った店舗での発注時間は、3時間から25分に短縮され、85%の削減が実現。全店でも大幅な削減が可能になりました。これにより、発注担当者の業務を大幅に自動化することが可能になり、接客やネットスーパーのピッキング作業など、他の業務に時間をさけるようになりました。

「これまでは、店ごとの売上にばらつきがあったのですが、全店を通じた発注の自動化により、効率的な品揃えが平均してできるようになったことで、販売力の底上げにもつながっています。また、誰が担当しても結果に差が出ない、自動発注に任せられるとなれば、スタッフも安心して休みが取れるはず。働き方改革にも繋がると期待しています」(ヤオコー・中島さん)

さらに無駄な発注をなくすことで、廃棄する食料品の数を減少させることができるようになりました。月によって異なりますが、5~15%の削減を実現させることが可能になり、「食品ロス」解消への貢献も期待されています。

日立の音川さんは、自動発注システムの展望について、小売りだけではなく、メーカーや物流なども巻き込んで、性能を上げていきたいと語ります。

「日立の需要予測は、物流業界や卸売業界での実績もついてきたので、今後は、メーカーさんも含めて情報を共有できるのではないかと考えています。そうすることで、データ連携したり、ムダを排除したりして、サプライチェーン全体での生産性向上を図っていきたいと考えています」

デジタル統括部とグロッサリー部が連携しながらプロジェクトをリードした(写真:野崎航正)