蜜蜂の存在は、作物の授粉、農業、風景にとって不可欠だ。この15年、蜂群崩壊症候群(CCD)として知られる現象により、蜜蜂の数は急激に減少している。対策を講じなければ、世界が食糧危機に直面する可能性もある。
蜜蜂の行動に関するデータを収集し、国際的な研究グループや農業従事者を支援するため、日立はオーストラリアの連邦科学産業研究機構(CSIRO)と提携して技術開発を進めてきた。そして、蜜蜂の移動を追跡し、減少の原因となるストレス要因や行動を把握するために、蜜蜂の背中に超小型RFIDタグを装着することにした。これは、協創による取り組みが、次世代の世界をいかに救えるのかを示唆する事例である。
日立のテクノロジーはどのように蜜蜂を救うのか
私たちの生活の営みにとって、蜜蜂の存在は重要だ。果物や野菜、植物油、種、ナッツ類などの食物の授粉には、蜜蜂が必要不可欠であるからだ。その影響は多岐にわたり自然景観はもちろん、食肉・畜産業や酪農分野における食物連鎖にまで至る。
しかし、蜜蜂は存亡の危機に瀕している。2006年以来、世界の蜜蜂の数は急速に減少し、蜂群崩壊症候群として知られる現象を引き起こしている。謎の激減によって農作物の授粉が行われなくなり、食糧危機につながる問題となっているのだ。
「私たちの全人口に食糧を供給するためには、今後30年で食糧生産を60%増やす必要があります。蜜蜂がいなければ食糧を得ることができません。森は存在できず、蜜蜂がいなければ地球そのものの存続も危うくなります。これらの問題に対して何らかの対策が必要なのです」と、CSIROのサイエンスリーダーであるPaulo de Souza教授は話す。
世界中で、研究機関やテクノロジー企業、農業従事者が力を合わせ、答えを模索している。CSIROの主導により、蜜蜂の行動を観察し、崩壊を引き起こす原因を究明するため「世界蜜蜂保全イニシアチブ」(GIHH)が発足した。
オーストラリアは、蜜蜂減少の一因とされているミツバチヘギイタダニ*の存在が確認されていないこともあり、蜂群崩壊症候群が回避できている数少ない国の1つだ。「そのため、オーストラリアはいつか私たちの問題にもなるこの課題を研究する重要な役割を果たしています」と、CSIROの授粉研究者のSaul Cunningham博士は話す。
これは世界中が考えなくてはならないグローバルな課題なのだ。そして日立の技術が、ここで中心的な役割を果たしている。

世界的な蜂群崩壊の原因を解明し、食糧危機を防止するため、世界中の研究者、テクノロジー企業、農業従事者が協力して蜜蜂の行動をきめ細かく観察している。
研究に不可欠なデータを収集するため、CSIROは日立化成と共同で、蜜蜂の背中に装着可能な超小型の無線自動識別(RFID)タグを採用した。
RFIDタグは2.5mm×2.5mmの小型チップで、文書、パッケージ、アパレルなどの製品の追跡に関するIoTアプリケーションで広く使用され、蜜蜂のような生体にも適用可能である。
「有料道路で使用する、車のICカードと同じように、個体のレベルで蜜蜂の巣への出入りを追跡することができます」と、CSIRO新産業チームのPeter Carter氏は言う。
読み取り範囲を4mまで拡張可能なブースターアンテナを備えたタグは、日立との協創により2011年に開発された。耐久性に優れ厳しい環境に耐えることができ、同時に重要な要素として、蜜蜂の動作を妨げることなく装着でき、データを収集することができる。
「蜜蜂の受粉能力や動作に影響する病気、農薬、大気汚染、水質汚濁、餌、異常気象などのストレス要因を分析することができます」と、Paulo教授は話している。
CSIROはタグからデータを取得し、クラウドにアップロードすることができ、国際的な研究コミュニティはそこにアクセスすることができる。

蜜蜂の行動追跡に採用された超小型無線自動識別(RFID)タグ
蜜蜂は習慣を持つ生き物だ。行動に変化があれば、ストレス要因や環境の変化が考えられる。日立の超小型RFIDタグを使用して蜜蜂の行動に関するデータを取得することにより、研究者は蜜蜂の授粉活動に影響を及ぼす可能性のある、ストレスや病気を特定することができる。
「私たちは1日24時間データを生成しています。地球上のどこにいても、バックパックをつけた蜜蜂が休むことなくデータを収集してくれます」と、Paulo教授は述べる。
「実験を始めてから、蜜蜂について多くのことがわかってきました。1つの巣の蜜蜂のうち、20%は他の巣に移り、数日滞在してから戻ります。これが、病気が拡散される原因になることがあるため、養蜂家にとっては重要な知見です」
研究と技術に基づく協創は前向きな結果としても認められている。
「日立で開発された技術の専門知識とCSIROで開発された技術を組み合わせると、さらなる改善方法についてオープンに語り合うことができます。これこそ協創であり、ここでイノベーションが生まれます」と、CSIRO新産業チームのPeter Carter氏は述べる。
「私たちが本当に重要だと考えているのは、革新的なデータサイエンスと技術を利用して、解決可能な問題をどのように定義し、世界の在り方を変えるために一体となって取り組むことです」

RFIDタグで収集されたデータについて語るPaulo教授
日立とCSIRO、そして技術を有する多くの企業や研究機関との協創によって、地球が直面している重要な課題の解決に向けた新しいアプローチを広く人々に示した。動線データと蜜蜂に関する専門知識を組み合わせることにより、単独での作業では成し得なかった蜜蜂の世界に関する貴重な知見が得られた。
研究グループ、政府、農産業の間で、世界の蜂群が直面している脅威が喫緊の課題であることが、広く認識されている。世界各地に影響を及ぼしている破滅的な蜂群崩壊の影響を、オーストラリアは今のところ受けていないが、多くの専門家はこれが時間の問題であると懸念している。
共同作業を通してまず取り組まなければならないのは、蜜蜂のストレスや病気に関与する可能性のあるメカニズムを理解し、解決することだ。
RFIDタグにより蜜蜂の巣の間の移動などが観察され、すでに有益なデータが明らかにされている。一部の蜜蜂は他の巣に移動し、そこに数日間留まる。これが病気を拡散させる原因の1つになっている。
このプロジェクトは、社会課題解決のためにテクノロジーをどう利用できるかを世界に示す機会となっている。これは蜜蜂や小型チップだけの問題ではなく、次世代を守るという課題なのだ。
CSIROの授粉研究者であるSaul Cunningham博士によれば、幸運にもこれまでオーストラリアには、驚くべき速度で海外の蜂群を破壊してきたミツバチヘギイタダニがいなかったという。
「そのためオーストラリアは、いつか自分たちの問題にもなるこの主要な問題を研究する、重要な役割を果たしています」とCunningham博士は述べる。
しかし、オーストラリアの園芸業や農産業は、農作物の授粉の多くを野生の蜜蜂に依存しているため、蜜蜂の数の減少に対して特に脆弱だ。
「私たちの人工的な蜜蜂の授粉サービスでは、自然の蜜蜂が果たすような役割を満たすには不十分であるため、結果的に農作物の生産量が低下し、果物や野菜などの一般的な食品の価格が上昇してしまいます」とCunningham博士は言う。
蜜蜂の健康保護における重要な領域でのそれぞれの取り組みを統合するために、世界蜜蜂保全イニチアチブ(GIHH)が開始されている。「手遅れになる前に、蜜蜂が直面している世界的な問題を解決するため、同じテクノロジーと研究手法を使用し、連携の取れた国際的な取り組みが必要なのです」とPaulo教授は述べる。
GIHHの取り組みでは蜜蜂にRFIDタグを装着し、蜂の巣の入口にRFIDリーダーを設置している。蜜蜂が巣に出入りする時刻、巣で過ごす時間などのデータを記録し、分析することにより、温度、気温、化学物質の量などの周辺環境との因果関係を特定するよう努める。日立は継続的にGIHHにおけるRFID関連の技術サポートを提供していく。

公開日: 2018年9月
ソリューション担当: 日立化成 株式会社