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AI Captain
ステナライン社がAI技術を用いた
船舶ナビゲーション導入に踏み切った理由

背景

ヨーロッパの大手フェリー会社であるステナライン社は、2019年3月時点で38隻の船舶を所有し、北欧地域で21の航路を運航しています。同社は世界で最も進んだコグニティブなフェリー会社になることをめざしており、サステナビリティに関連する目標もいくつか設定しています。そのうちのひとつが、年間の燃料消費量を一海里*あたり2.5%低減するということでした。その目標を達成するために、ステナライン社は航海に関連するオペレーションをより効率化し、安全性の向上や、船舶の燃料消費量の低減につながるソリューションを求めていました。そこで日立は、燃料を消費する主な原因をAIの導入によって特定し、オペレーションの効率化と環境面でのサステナビリティを実現できるようにサポートを開始しました。

*一海里=1,852m

課題

船舶業界では従来、過去の航路情報と、船長たちが持つ知識を組み合わせて新たな航路を計画していました。しかし、このような方法で策定した航路が、燃料効率の最適な航路とは限りません。なぜなら、航海中は風の状態、水深、海流など複数の要素が常に変化しており、船舶は予測困難な影響を受けることがあるからです。経験豊富な船長であれば、海上での長年の経験によって、最適な航路を直感的に判断する術を身に付けていますが、新米船長の場合それらのノウハウを身につけることは容易ではありません。船長一人ひとりが訓練し、そうしたノウハウを身に付けるためには、およそ25年かかると言われています。そのような理由から、ステナライン社は次世代の船員にベテラン船長が持つ知識と経験を受け継いでいくための、効率的な新しいソリューションを模索していました。

ソリューション

2018年9月、ステナライン社は、船舶ステナ・スカンジナビカ号に初めてAIによる航路策定支援技術を導入。現在この船では、この支援技術が試験的に運用されています。

このAIは、さまざまなシナリオをシミュレーションして、燃料効率を上げるための最適な航路や稼働状態を提案します。船長と他の船員は、AIの支援によって、風の状態、水深、海流、対水速力といった多くの変数を、自動的に組み合わせることが可能となります。それに加えて、航海中に周囲の状況に合わせてリアルタイムで分析し、船舶が常に最善のコースを航行できるよう、継続的にサポートしています。

さらにAIに過去の運航データを学習させ、その判断を継続的に発展・改善させています。このように、日立とステナライン社は、協創により本プロジェクトを推進しています。

将来の展望

日立は、ステナライン社の既存のデジタルアーキテクチャの見直しを継続的に行っており、2021年までに世界で最も進んだコグニティブ船舶会社になるという同社の目標を支援しています。

ステナライン社は日立の支援によって、船舶業界における環境負荷低減に向けた取り組みの先頭に立ちながら、AIをはじめとした先端技術を活用して燃費の効率性も向上させています。

今後は、船長が航路を計画する際に、究極の航路決定支援システムとなるような、精度の高いAIモデルを創り出すことを第1の目標とし、さらに、複雑に変化する海流をAIを活用して正確に予測できるようにすることも視野に入れています。これは、経験豊富な船長にとっても、また次世代の船員たちへの指導においても、貴重な支援となるでしょう。

  • 公開日: 2019年7月 (原文は2019年3月に公開)
  • ソリューション担当: 日立ヨーロッパ デジタルソリューションズグループ