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社会イノベーション

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「破壊的イノベーションにチャレンジ」 鈴木CTOに聞く日立の研究開発戦略

2022年8月30日 いからし ひろき
イノベーション戦略について語る鈴木教洋CTO(写真:野崎航正)

日立製作所は、2022年4月に「2024中期経営計画(以下、2024中計)」を発表。今後の方針の一つとして「イノベーションのための先行投資」が示され、先端研究開発に3年間で1,000億円を費やしていく方針です。

ここまで力を入れる日立のイノベーションとはどのようなものか。同社の研究開発部門のキーマンで、CTO(最高技術責任者)兼研究開発グループ長の鈴木教洋さんに聞きました。

イノベーションとは知の深化と探索

インタビューに応じる鈴木CTO(写真:野崎航正)

――まず、ご自身の日立における立ち位置やバックグラウンドについて、簡単に教えてください。

鈴木教洋CTO(以下、鈴木):日立のミッションは「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ことで、私はそれをリードすべき責任ある立場にあると自認しています。

バックグラウンドとしては、1986年に日立中央研究所に入所し、主にテレビなどコンシューマー向け製品の画像処理の研究開発を担ってきました。当時はアナログからデジタルに変わるタイミングでしたので、その標準化を手掛けたことは思い出深い経験です。

これまでにアメリカには3度駐在し、日立アメリカ社でCTOを2年半務めたこともあります。その後中央研究所の所長などを経て、2016年に研究開発グループ長に任じられ、今に至ります。

――アナログからデジタルへ変わるダイナミックな時代を研究者として過ごしたわけですが、同じく変革期である今の時代を、どう捉えていますか?

鈴木:80~90年代は製品中心で、いかに最高性能を出すかというところで競っていたと思います。ですが、今は製品の性能というより、顧客の課題を解決するソリューションをいかに提供していくかという点が重要です。さらにNFTやメタバース、Web3.0といった新しいテクノロジーが出てきてニーズが複雑化しており、一研究者としてはチャレンジしがいのある時代だと思います。

一方、世界を俯瞰してみると、プラネタリーバウンダリー(地球環境の限界)を把握しながら、ウェルビーイング(心と体と社会の良い状態)をいかに追求していくかが求められています。こうした中で、日立は、テクノロジーやイノベーションを通じて社会にどう貢献していけるかが問われていると思います。

2020年にスタンフォード大学のオライリー先生と対談した時の様子

――そうなると、2024中計における「イノベーション」の意味や位置づけも、社会貢献がキーワードになるのでしょうか?

鈴木:創業者の思いを引き継ぎ、自社技術の開発を追求してきたのが我々研究開発グループだと自負しています。その研究開発グループも100周年を迎え、新たなイノベーションにチャレンジしていこうという局面にあり、私自身も非常にワクワクしております。

ただ、知的探求を愚直に行っていけばよいとは思っておりません。そう強く思ったのは、スタンフォード大学ビジネススクールのチャールズ・A・オライリー先生とリモート対談した時です。オライリー先生は「ニューノーマル時代におけるイノベーションは、既存事業の延長と全く新しい事業の開拓、この2つをバランスよくやっていくことが必要」とおっしゃいました。

つまり、企業は顧客と共に成長していくべき存在なので、顧客の成長を支えることに注力すべきである、と理解しました。日立においては、「Lumada(日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューションやサービスなどの総称)」を軸として、デジタルサービス事業を創生し、顧客の課題を解決するということになります。これは、既存の技術やサービスを土台とした“知の深化”ですね。

もう一つは、2050年にカーボンニュートラルを実現するために、バックキャスト(未来の状況を予想し、そこから立ち戻って現在取り組むべき施策を考える発想法)に基づいた、「破壊的イノベーション」の創出が必要である、ということ。これは言うなれば“知の探索”です。

つまり、“知の深化”と“知の探索”、両方を同時並行でやっていこうというのが、「2024中計」におけるイノベーションの意味であり、意義であります。

顧客の課題を先取りして解決する

(写真:野崎航正)

――「デジタルサービス事業の創生」と「破壊的イノベーション」、それぞれの事業戦略や注力領域を具体的に教えてください。

鈴木:まず、「デジタルサービス事業の創生」ですが、これはデジタル人財のさらなる強化に尽きると思います。前回の2021中計以来、特にAI分野でトップクラス人財を育成してきました。

今では、音声処理や映像解析、機械学習やデータ分析などの分野で権威ある大会において、数々の賞を獲得するなど、日立の強みを世界に示すことができています。同時に、賞を獲得することで研究者自身も自信がつきますし、大会への参加で得た知見を顧客の案件に生かしていくといった良い循環ができています。

「破壊的イノベーション」においては、3つの軸で捉えています。1つ目はCO2排出量が吸収量を下回る状態にする「カーボンネガティブ」、2つ目は人生100年時代を見据えた「ヘルスケア」、3つ目がデジタルと人が共に進化していく「共進化」です。

「カーボンネガティブ」については、CO2を出さない水素エネルギーの貯蔵や輸送、人工光合成を含めたCO2回収・除去テクノロジー、この2つに大きくリソースを当てています。「ヘルスケア」では、がんや難病で亡くなる人を減らすための粒子線治療と細胞治療という2つの次世代高度化医療に注力します。そして、「共進化」においては、シリコン量子コンピューターの領域にしっかりと手を打っていこうと考えています。

(写真:野崎航正)

――そうした事業戦略を実現する上での課題と、課題解決のための取り組みについてはどうお考えですか?

鈴木:「デジタルサービス事業の創生」については、“顧客の課題をいかに解決していくか”が肝になるでしょうね。

難しいのは、いま社会やビジネスの変化のスピードが速く、なかなか将来が見通せないということです。そうなると、我々が顧客の現状を深く理解し、顧客の業界で何が起こるのかという“兆し”を敏感に捉え、それを先取りした形で顧客の課題を解決していくほかありません。そうすればきっと多くの顧客が我々をパートナーとして選んでくださるだろうし、共に成長していけると確信しています。

「破壊的イノベーション」に関しては、さまざまなステークホルダーとの“共感”と“仲間づくり”が鍵になってくると思います。というのも、未来の社会においては、さまざまな価値が流通するエコシステムの基盤を提供することこそが、日立の役割だからです。そして基盤である以上、弊社だけでは成り立ちません。産官学に加えて、地域社会などとの連携も必要だと考えています。

誰もが快適に、安心して暮らせる社会に

(写真:野崎航正)

――最後に、今後「イノベーション」を通じて日立が実現したい世界についてお聞かせください。

鈴木:グローバル化といわれて久しいですが、実際は国や地域で前提条件や文化が全く異なります。当然、イノベーションにおいても、地域ごとに最適解があるはずです。

したがって我々も、基盤となるテクノロジーはグローバルで共有しつつ、世界中に拠点を持つ日立の研究者が各地域の文化や顧客を深く理解して、そこに住む人々に本当の豊かさを提供するためのイノベーションを起こしていく。こうしたことが、日立に求められているのだと思います。

プラネタリーバウンダリー(地球の限界)を念頭に置いたイノベーションの創出も重要なテーマです。CO2以外に海洋ゴミや資源の枯渇などさまざまな問題があり、それらを全体として見ていかないと抜本的な解決にはつながりません。ある部分だけを最適化しても不十分なのです。

こうした追求に終わりはありません。人間にも地球にも良さそうに見えるけれど、さらに違った角度から見たら本当にバランスが取れた良いソリューションだろうか? そういう視点を飽くことなく持ち続けることが大切です。

そのためには、幅広い知識が必要となるでしょう。同じ業界にとどまらず、さまざまなステークホルダーのみなさまと議論し、相互理解を深め、そこから生まれたイノベーションによって、誰もが快適に、安心して、健やかに暮らせる社会の実現に貢献できればと思っています。