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社会イノベーション

注目される「従業員体験」、デジタルトランスフォーメーションが果たす役割とは

BUSINESS2COMMUNITY • BY KELLIE WONG

テクノロジーを日々の生活向上に役立てるための考え方として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が急速に高まっています。効果的かつ魅力ある顧客体験に不可欠な存在として注目されることの多いDXですが、もう1つの大きなメリットを忘れてはなりません。それは“従業員体験”(employee experience = EX)の向上です。

人事専門家向けメディアEmployee Benefit Newsは「新たなテクノロジーは、“あるにこしたことはない”(nice-to-have)存在から、“なくてはならない”(must-have)存在へと急速に変化しつつある。Cレベル役員や人事統括責任者の92%は、従業員の獲得や定着、エンゲージメントの向上をその役割として挙げている。2016年では同様の回答が79%だったことを考えれば、重要性の高まりは明らかだ」と論じており、人事関係者の多くがテクノロジーのポテンシャルに関心を高めています。デジタルテクノロジーは、EXにどのような具体的メリットをもたらすのでしょうか?

新入社員の定着

まだ職場環境になじめず、学ぶべきことが山ほどある入社直後の時期は、企業と従業員の関係がきわめてデリケートになります。米国の調査企業Gallupが実施したアンケート調査では、「新入社員の定着(オンボーディング = onboarding)に向けた所属企業の取り組みが効果的だと考える回答者はわずか12%」で、18ヶ月以内に退職する割合も全体の約半数に上りました。最初の90日間で退職する割合が4分の1以上というHR Technologistの調査結果も、問題の深刻さを浮き彫りにしています。Gallupがその大きな要因として挙げるのは、採用後のフォローアップや組織に定着させるための「オンボーディング」の取り組みが不十分なために、新入社員が企業とのつながりを築けないといった現状です。デジタルテクノロジーは、こうした問題の解消に重要な役割を果たすでしょう。例えば拡張現実(AR)を活用すれば、五感を駆使した実体験さながらの研修環境を構築できます。新入社員が使い方の分からない機器にスマートフォンを向けることで、いつでも使用方法を学べるといった仕組みは非常に効果的です。

従業員とのコミュニケーション向上

Achieversの最高ワークフォース科学責任者(Chief Workforce Scientist)Natalie Baumgartner氏によると、「従業員の3分の1以上は、経営者が自分たちの声に耳を傾けていない」と感じています。一方、従業員からフィードバックを受ける機会をを継続的に設ける企業では12%の業績向上が見込めるというGartner Researchの研究報告書が示すように、コミュニケーションを活性化させる取り組みは極めて重要な意味を持つでしょう。従業員がグループ単位でフィードバックを行う場合は、さらに大きな効果(14%)が期待できます。同社が取り組みの重要なポイントとして挙げるのは、従業員の将来のキャリアプラン・業務に対する向上心が企業にどのようなメリットをもたらすのかという観点で意見交換を行うことです。つまり過去に起こったことを振り返るのではなく、将来を見据えたコミュニケーションが求められるのです。こうした対話を実現するためには、従業員それぞれの声に注意深く耳を傾け、(一度きりでなく)定期的に機会を設ける必要があります。同社の言葉を借りれば、「(その場しのぎでなく)継続的にフィードバックを相互に受ける機会を設け、従業員の“やる気”に火をつける」ことが大事なのです。

こうした取り組みでは、デジタルテクノロジーを活用したフィードバック共有プラットフォームが極めて重要な役割を果たします。常時コミュニケーションを実現することで、従業員の自立性を促進することや信頼関係の強化につながるからです。DXを推進し、パルスサーベイやチャットボットなどを通じて率直な意見交換の機会を設ければ、従業員への理解をさらに深めることができるでしょう。EX向上のヒントを得る相手として、従業員に勝る存在はいません。そして取り組みが進むにつれ、従業員の参加意識や向上心も強まるはずです。ある調査によると、所属企業や経営者がフィードバックに“妥当な対応をした”と考える従業員は44%、“対応がひどかった”と考える従業員は23%に達しています。この数字は取り組みの重要性を如実に示すものでしょう。

福利厚生サービスの認知向上

従業員の多くは(勤続年数に関わらず)、利用可能な福利厚生サービスがわからないという悩みを抱えています。Employee Benefit Newsが米国で行った調査によると、“共同保険”、“医療費の自己負担金”、“税控除”、“自己負担限度額”といった言葉の意味を説明できる回答者はわずか4%でした。医療保険や年金制度が大きく様変わりしつつある今、人事担当者が複雑な情報を分かりやすく伝える必要性は高まっています。個別化された情報モジュールやチャットボット、音声起動型検索といったテクノロジーを活用すれば、従業員が容易に(そして楽しく)制度や選択肢を理解できるはずです。またSNS上に解説動画のライブラリを立ち上げる、あるいは福利厚生分野の質問に答える音声起動型バーチャルアシスタントを開発するといった取り組みも見られます。新たなプラットフォームを構築し業務を簡素化すれば、時間のかかる作業から人事担当者を解放し、より重要性の高い個別相談サービスなどに振り向けることも可能でしょう。

健康・ウェルネス増進サービスの推進

Fitbitをはじめとするウェアラブル端末や血糖値管理アプリなど、近年様々なデジタル機器の開発・利用が進んでおり、従業員の健康・ウェルネス増進に向けた企業の選択肢は拡大しつつあります。睡眠パターン記録アプリを通じ、正しい睡眠習慣の重要性について学ぶ機会を提供するプログラムWelltrinsic Sleep Wellness Programはその一例です。

メンタルヘルスも重要な分野です。Employee Benefit Newsの調査によると、所属企業がこの分野で支援やプログラムを提供していないとする回答者は42%。所属企業がどのような取り組みを行っているかわからないと答えた回答者も11%に達しています。DXはこうした問題の解消にも重要な役割を果たすでしょう。例えばヘルステック企業Big Healthが最近リリースしたスマホアプリDaylightは、インタラクティブな音声コミュニケーションとアニメーションを通じて、ネガティブ思考や不安感、鬱状態に悩む従業員にサポートを提供します。Boston Medical Centerは、2019年2月から従業員の3分の1を対象に同アプリを試験導入。5月からは全従業員を対象に本格利用を開始しました。

実績評価と報奨の強化

テクノロジーは、従業員同士のつながりを強化するツールとしても重要な役割を果たします。近年ソーシャルメディアは人間関係の構築に不可欠となっていますが、その理由の1つは個人の実績や努力を評価・承認する場として機能しているからです。企業が日常的に従業員の努力・実績を評価・報奨する仕組みをデジタル・プラットフォーム上で実現すれば、他者や社会からの承認欲求が持つ力を有効に活用できるでしょう。従業員の実績評価・報奨へテクノロジーを効果的に活用することは、これまで以上に重要となっているのです。

例えばある調査によると、従業員の82%は実績の評価向上を望んでいますが、月に一度以上そうした機会があると答えた回答者はわずか13%にとどまっています。また転職を考えると答えた回答者も64%に達しました。実績評価は、従業員のやる気や帰属意識に最も大きな影響を与える要因です。承認という行為が持つ力は極めて大きなものなのです。従業員の実績評価・報奨プロセスを自動化・効率化し、その仕組みを全組織レベルで透明化するなど、テクノロジーはこうした分野でも効果を発揮します。ソフトウェアを導入して、同僚の実績評価を行う、ポイント制の報奨を受け取る、企業の価値を評価に結びつける、デジタル“お祝いカード”を贈るなど、様々な取り組みが可能となるでしょう。

感謝やねぎらいの言葉をかけるといった個人レベルの承認行為は従業員が同じ場所にいなければ実行できませんが、コロナ危機により(少なくとも一部の業務時間で)現在リモートワークを実践する米国の労働者は43%に増加しています。(2019年8月時点)同僚・上司と同じ場所で働くことが難しい今、テクノロジーをコミュニケーション・チャンネルとして駆使することがこれまで以上に求められているのです。

デジタルトランスフォーメーションがもたらす力

DX黎明期には、テクノロジー革命の拡大が無味乾燥で人間味の欠けた従業員体験につながるという不安の声が多く聞かれました。しかし現在、デジタルツールは従業員の実績・努力に目を向け、血の通った職場環境を実現する存在として認識されつつあります。DXと従業員体験の関係については、Achievers社の報告書『The New Digital Workforce: A Guide to Engaging Today’s Employees』でさらに詳しく取り上げています。


The Engage Blogに発表された本記事は、Business2CommunityのKellie Wongが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。

日立グループにおいても、従業員の「ハピネス関係度」を計測し、組織の活性化や生産性の向上に活かすための研究開発を行っています。「働き方改革」を越えて、全ての人がイキイキと働ける社会を実現するための取り組みについては、こちらの記事をご覧ください。