「COP」や「パリ協定」とは 脱炭素社会実現に向けた世界の動きを解説

気候変動に関する話題でたびたび登場する「COP」ですが、そもそも何なのでしょうか。
この記事では、COPが誕生した経緯や「京都議定書」「パリ協定」といった節目に触れながら、これまでのCOPの変遷を紹介します。
COPは気候変動問題の「国際会議」
1970年代以降、森林の破壊や砂漠化、温室効果ガスによる地球温暖化など、人類の活動による地球環境への悪影響を問題視する声が世界中で高まりました。
地球温暖化や気候変動に対して、世界が一致団結して取り組む必要がある――。そんな認識から、1992年に国連で気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択され、1994年に発効します。これに基づいて、1995年からほぼ毎年開かれているのが「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」です。
ちなみに、COPとは「Conference of the Parties」。すなわち「締約国の会議」の略で、国際条約を結んだ国々が参加する会議を指す言葉です。
地球温暖化の進み具合は、温室効果ガスの排出量にほぼ比例すると考えられています。そのため、地球温暖化やそれによる気候変動を食い止めるためには、温室効果ガスの排出をいかに減らしていくかがポイントとなります。
COPは、「大気中の温室効果ガスの濃度を安定化すること」を究極の目標として、そのために必要となる国際的な取り決めを行う国際会議なのです。
節目は「京都議定書」と「パリ協定」

第1回となるCOP1は1995年、ドイツのベルリンで開催されました。
地球温暖化対策は各国の利害が対立するため、国際社会が一体となって取り組むことには、大きな困難が伴います。しかし、地球温暖化や気候変動という地球規模の危機を乗りこえるため、COPは紛糾を繰り返しながらも、前進を続けてきました。
COPの歴史上、大きなマイルストーンとなっているのが、1997年のCOP3で採択された「京都議定書」と、2015年のCOP21で採択された「パリ協定」です。

COP3で採択された京都議定書は、温室効果ガス排出量の削減について国際的な数値目標を初めて定めた、画期的なものでした。
日本や米国、EU(欧州連合)など先進国に温室効果ガス排出量の削減が義務として定められ、2008年から2012年までの間に、先進国全体で少なくとも5%の温室効果ガスの排出削減(1990年比)をめざすことが決まりました。
しかし、先進国だけを削減義務の対象とした京都議定書には、不満の声もありました。米国やカナダは京都議定書から離脱。日本も、京都議定書の第二約束期間(2013年~2020年)には参加しないなど、国際社会の足並みがそろいませんでした。
具体的な数値目標が定められ、排出削減が義務づけられた京都議定書の意義は非常に大きいものです。しかし、先進国の努力だけで地球規模の問題を解決することはできません。
また、京都議定書は2020年までの枠組みです。京都議定書に続く2020年以降の新しい枠組みでは、途上国もふくめ世界全体で取り組む体制をつくることが不可欠でした。
そのような課題の中で、極めて重要な役割を担うことになったのがCOP21です。2015年の11月30日からフランス・パリで開催されました。

COP21でも先進国と途上国の間の溝は大きく、交渉は難航しました。しかし2015年12月12日、2020年以降の新しい枠組みとなる「パリ協定」が全会一致で採択。
世界全体の長期目標として、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つ(2度目標)とともに、1.5度に抑える努力を追求する(1.5度目標)」ことが示されました。
また、具体的な削減目標は、各国自らが「国が決定する貢献(NDC)」として設定し、必要な対策を講じる仕組みです。削減目標は5年ごとに更新します。目標の設定と行動、見直しを5年ごとに行いながら、より踏み込んだ排出削減の取り組みをしていくことが求められています。
先進国だけでなく、気候変動枠組条約に加盟している196カ国すべてが温室効果ガスを削減するために行動すべきであると、定められたパリ協定は、地球温暖化や気候変動の対策における歴史的な転換点となりました。
大きな反響を呼んだ「IPCC 第6次報告書」
2021年8月、COP26の開催を目前に控えた時期に発表された「報告書」が、大きな反響を呼びました。地球温暖化や気候変動について科学的な評価を行っている国連の組織「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」が発表した第6次報告書です。
発表されたのは第6次報告書の一部(第1作業部会報告書「自然科学的根拠」)ですが、非常にインパクトのある内容でした。人間活動による地球温暖化は「疑う余地がない」として、その関連を初めて断定したのです。
これまでの報告書では、人間活動と地球温暖化との関連について「可能性」という表現が使われてきましたが、今回の報告では、人々の活動が地球温暖化を引き起こしていることは確実だとされました。
もはや「地球温暖化は人間活動によって引き起こされているとは断定できない」という言い訳をして、対策を滞らせることはできなくなったのです。

それでは、人間活動はどの程度の温暖化を引き起こしているのでしょうか。
IPCCの報告によれば、直近10年(2011年~2020年)の世界の平均気温は、産業革命以前(1850年~1900年)と比べて1.09度上昇しており、このうちのほとんどが人間活動によるものと考えられています(上図)。
自然起源の要因のみを考慮したシミュレーションと比較すると、人間活動の影響がいかに大きいかがうかがえます。
地球温暖化は単に世界の平均気温が上昇するだけの問題にとどまりません。地球の気候システム全体に影響を及ぼすため、高温、豪雨、干ばつ、熱波など、いわゆる異常気象の頻度や強度を大きくすると考えられています。
脱炭素社会の実現に向けた各国の動き
2度目標または1.5度目標の達成をめざして、世界は大きく進み出しました。そして、COP26の開催を前に、各国の動きはさらに活発になっています。
米国はトランプ政権下で2020年にパリ協定から離脱していましたが、翌年、バイデン大統領のもと正式に復帰。バイデン大統領は、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「ネットゼロ」を公約としており、2021年4月に削減目標を引き上げました。これにより、「2025年までに26%~28%減(2005年比)」としていた削減目標は「2030年までに50%~52%減(2005年比)」と大きく変更されました。
地球温暖化や気候変動の対策で世界をリードしている欧州では、EUが2050年の温室効果ガスの排出量実質ゼロを表明しています。削減目標は、これまで「2030年までに40%減(1990年比)」としていましたが、2020年に大きく引き上げられ、現在は55%減をめざしています。
日本でも、2020年10月、菅首相が所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」を宣言。2021年4月には「2030年度に26%減(2013年度比)」としていたこれまでの削減目標が、46%減と大幅に引き上げられました。
そして、これからの地球温暖化対策でカギとなってくるのが途上国です。
例えば中国は2060年でのカーボンニュートラルを表明し、2030年までにGDPあたりの二酸化炭素排出量を2005年比で65%以上削減するとしています。また、インドではカーボンニュートラルの表明こそありませんが、2030年までにGDPあたりの温室効果ガス排出量を33%~35%削減する(2005年比)という目標を掲げました。
途上国の温室効果ガス排出量は経済発展に伴って増加しており、地球温暖化対策において重要度が高まっています。しかし、途上国の取り組みは国によって温度差があり、先進国の支援を期待する部分が大きいことも事実です。
COP26の争点は「市場メカニズム」

今回のIPCCの報告は、各国にこれまで以上の取り組みを求めるものです。気温がわずかに上昇するだけでも、地球の環境、私たちの生活や生命は大きく脅かされます。しかし、温室効果ガスを削減するために各国が掲げている削減目標は、そのすべてが実現したとしても、気温上昇を2度や1.5度に抑えることはできないと考えられています。
地球温暖化を取り巻く状況は厳しく、これまで以上の対策を行う必要があり、野心的な削減目標の設定と具体的な行動が求められています。今回のCOP26では、その姿勢が問われることでしょう。
また、パリ協定で定められたものの、その後のCOP24、COP25で合意に至らなかった「市場メカニズム」は、COP26での採択をめざして協議が行われる予定です。市場メカニズムとは、温室効果ガスの排出権取引のことです。他国で行った排出削減の取り組みを自国の削減分として計上できるしくみで、これまでに大枠の合意はできているものの、いくつかの論点を残してCOP26に引き継がれています。各国の対立を超えて合意形成できるか、注目したいところです。
さらに、「気候資金」とよばれる資金支援も、大きな議論となるでしょう。2009年にデンマーク・コペンハーゲンで開催されたCOP15において、先進国は2020年までに毎年1,000億米ドルの資金支援を途上国に行うことが取り決められました。現在はそれを2025年まで継続することになっています。2025年以降の新しい気候資金についてどうなるのかも、今回のポイントです。
今後の10年間は、地球温暖化や気候変動の対策の正念場といわれています。そのスタートとなるのがCOP26です。温室効果ガスの排出を削減し、気候変動を可能な限り食い止めようという、これまでにない大きな潮流が生まれつつあります。
企業にも一層の取り組みが求められていくことは間違いありません。国や企業、そして各個人がどのような行動をとっていくか、未来の地球に直結するターニングポイントにさしかかっています。