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    • R&D(研究開発)

    貴重なデータを後世に伝えるための研究が世界で進められている。現代の記録メディアでは、寿命が短く火事などの災害にも弱いため、半永久的にデータを残すことはできない。日立は、石英ガラスに着目し、半永久的にデータの保存を可能とするアーカイブ技術の研究開発を行っている。

    動画「3億年後にデータを残す―日立の石英ガラス記録技術―」

    事例の概要

    • 背景
      歴史的な文化遺産や公文書など貴重なデータ、また、個人的に後世に残したいデータを、長期間かつ安全に保存するというニーズが高まっている。ただし、現在、そのメディアとして使用される光ディスクやハードディスクは、寿命や耐久性の面で十分ではない。そこで日立は、デジタルデータを超長期保存する最先端技術の研究開発に挑戦した。
    • 取り組み
      日立は、2008年からデジタルデータの超長期保存をめざした研究に着手。翌年には石英ガラスに着目し、それに記録したデータが3億年の超長期保存にも耐える可能性を示した。そして2011年に京都大学との共同研究を開始。レンズによる球面収差など、さまざまな問題を克服し、2014年にブルーレイディスク™相当の記録密度と超長期保存の両立を実証した。
    • 展望
      石英ガラスによるアーカイブ技術は、3億年を超えるデータ保存と1000℃の高温にも耐え得るという優位性をもつ。その技術を用いて2014年12月、未来に向けて「3億年後へのメッセージ」を描画した石英ガラスが超小型人工衛星に搭載された。そして今後も、文化財など人類の遺産を半永久的に保存するための研究開発に取り組んでいく。

    背景

    石英ガラスの耐熱性・耐水性に着目

    情報技術や社会のネットワーク化の進展に伴い、その記録媒体は、紙からフロッピーディスク、さらに光ディスクや、ハードディスクへと急速に移行してきた。そんな中、歴史的な文化遺産や公文書といった貴重なデータ、あるいは個人が後世に残したいデータを長期間かつ安全に保存するというニーズが高まっている。とはいえ、光ディスクやハードディスクは、記録密度の点では十分であるものの、半永久的に保存したいという目的に対しては、外的ストレスに対する耐久性や長期保存の点で十分とはいえない。

    日立は、デジタルデータを超長期保存する最先端技術の研究開発に挑戦している。恒久的な保存期間はもちろん、一番の目標としたのは、湿度や温度の変化、水没や火災などの外的ストレスに対する高い耐性と、特殊なドライブに依存しないでデータの再生が可能なことである。そこで日立が記録媒体の素材として着目したのが、化学的に安定した物質で、放射線にも強く、高い耐熱性と耐水性をもつ石英ガラスだった。

    取り組み

    3億年の超長期保存とブルーレイディスク™並みの記録密度の両立に成功

    日立は、2008年に「革新研究」のひとつとして、デジタルデータの超長期保存をめざした研究に着手し、翌2009年には石英ガラスに記録したデータが3億年の超長期保存にも耐える可能性を示した。

    2011年より京都大学大学院工学研究科の三浦清貴研究室との共同研究を開始し、記録密度の向上の検討を進めるとともに、再生方法の簡素化も行って来た。その結果、データ記録にはフェムト秒パルスレーザー*、データ再生には光学顕微鏡を使用することになった。具体的には、数兆分の1秒以下のパルス幅でレーザーを照射するフェムト秒パルスレーザーによって、石英ガラス内部に屈折率の異なるドットを形成し、ドットを1、ドットの生じない部分を0としてデータを多層記録する。再生する際には、層ごとに顕微鏡で撮影を行い、その画像からドットの配置を読み取りデータを再生する。

    図1:フェムト秒パルスレーザーと空間位相変調器による高密度多ビット同時記録

    レーザー装置を用い、ドットを形成させることでデータを記録する

    光学顕微鏡とパソコンでの画像処理によるデータ再生

    2012年には石英ガラス内部に4層のデータを記録することでCD並みの記録密度、2013年には26層にデータを積層することでDVD並みの記録密度でデータの記録・再生する技術を開発した。このような高密度化には、記録・再生両面での飛躍的な改善が不可欠だった。データ記録においては空間位相変調器を用いて一度に300ビット程度の「高密度多ビット同時記録」を、またデータ再生においてはボケ画像を利用してノイズを除去する「輪郭強調処理」などを新たに開発することによって、記録密度向上につながる成果を上げた。同時に、記録後の石英ガラスが1000℃、2時間の耐熱性および半永久的な寿命をもつことを実証した。

    ところが、さらなる記録密度向上のために記録層の多層化を進める中で、思いがけない問題に直面した。石英ガラス内部の記録層は層間60μm(マイクロメートル)という微細な距離だが、層の数が増えると表面から奥深いところに記録することが必要になる。この奥の層に記録する際、ドットが奥行き方向に伸び、隣の層のデータを再生する際にノイズになってしまい、記録したデータが正しく読めない現象が起きたのである。また、再生の際にも奥の層のドットの画像がボケてしまうという問題も生じた。この原因は、空気と石英ガラスの屈折率が異なるために生じる球面収差と呼ばれるレンズの収差によるものである。
    そこで、球面収差補正レンズを用い、記録時にドットが縦方向へ伸びてしまう現象や再生時に奥の層のドットがぼける現象を抑制すると共に、新たなノイズ除去アルゴリズムを適用することによって、実用化基準を満たす再生エラーの低減も果たした(図2参照)。

    このような多層化に伴う問題を解決した結果、2014年、日立は京都大学と共同で100層サンプルの試作に成功、それはすなわちブルーレイディスク™に相当する 1.5GB/inch²の記録密度と3億年という超長期保存の両立ができることを実証した。また、この成果により、さらなる多層化の可能性も見いだすことができた。

    *
    フェムト秒パルスレーザー:レーザー光線1発の持続時間をパルス幅といい、そのレーザーパルスの持続時間を数兆~数百兆分の1秒にまで短パルス化したレーザー

    図2:球面収差補正などにより、実用化基準を満たしたデータ再生のプロセス

    展望

    人類の遺産などをアーカイブするために日立が取り組む研究開発

    「しんえん2」に搭載された「3億年後へのメッセージ」を描画した石英ガラス

    現在、長期保存の記録媒体として半導体メモリや細菌の遺伝子を活用した研究などが世界で進められているが、日立のこの技術は、3億年を超えるデータ保存と1000℃の高温にも耐え得るという優位性をもつ。また、デジタルデータに加えてドットを使って文字や絵、写真なども描画できるという特徴がある。2014年12月、鹿児島県の種子島から打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち上げロケットに相乗りした小型副ペイロード「しんえん2」(九州工業大学・鹿児島大学共同開発)には、この技術を用いて「3億年後へのメッセージ」を描画した石英ガラスが搭載された。文字や絵、写真、音で表現される文化財なども人類にとって後世に伝えるべき貴重な遺産である。

    今後も日立はさまざまな貴重なデータを半永久的に保存するための研究開発に取り組んでいく。

    公開日: 2015年3月
    ソリューション担当: 日立製作所 研究開発グループ