東南アジアなど新興国の都市では、人口の増加や経済発展にともない水需要が増加する一方で、水道管からの漏水が大きな社会課題となっている。貴重な水資源をムダにするだけでなく、水道事業の健全な運営を阻害することにもなるからだ。しかし、網の目のような水道管網全体から、漏水個所を探し出すのは簡単なことではない。そこで日立は、シミュレーション解析技術を応用した革新的なシステムを開発した。
新興国の人口増加や経済発展を背景に世界的に水需要が高まる中、需要を満たすための水資源の確保はもちろん、その貴重な水資源をムダなく使うことが社会に求められている。しかし世界には、漏水などの原因により、浄水場から工場や家庭の利用者へと水道水が適正に届かず、料金収入に結びつかない「無収水」の割合が30%を超える地域も多い。無収水率が高く、水道水の損失が大きくなるほど、水道事業者の経営は厳しくなり、その結果、水を使う需要者側にとっても水道料金に跳ね返るなどの悪影響を及ぼしているのが現状である。
こうした無収水の問題に対して、日立はICTの活用を通じて課題解決をめざしている。具体的には、水運用に関わる情報・制御システムを活用する。その基盤となるのが、監視制御システムと管網管理システムである。これら二つを基盤として、配水コントロールシステム、漏水管理システムなどと連携させながら、漏水による水損失の低減や効率的な水道事業の運営につなげるのが目的である。
このように、課題を解決するにはいくつかのアプローチがあるが、日立はすでに、それらの基盤システムをうまく組み合わせて活用する取り組みをグローバルで展開している。 例えば、モルディブの首都マレにおいて管網管理システムを構築。管網管理システムに水道管の管網データや家庭で使う水量データなどをデータベース化して活用することで、圧力シミュレーションや断水シミュレーションを実現した。その結果、水道管網の効果的な更新計画や工事計画の策定ができるようになった。このように老朽化した配管や設備の更新を計画的に実施する体制が整ったことが、漏水を起こさせないことにつながる。また、モルディブの水道システムに導入された先進的なICTは、業務の効率化と経営安定化にも貢献している。
断水しているエリアを特定するシミュレーション解析例
他の事例として、千葉県柏市では、配水コントロールシステムを導入した。2010年に更新された配水コントロールシステムは、リアルタイムに収集した計測データをもとに、工場や家庭に配水するポンプの圧力を適正に制御する。ポンプの過剰な圧力を抑制することで、水道管への影響を少なくし、漏水を低減する効果も得られるのである。同時に、配水ポンプに余分な電力を使わなくてすむようになったため、柏市の水道部はおよそ8%の省エネを実現した。
東南アジアの都市などで深刻な社会課題となっている水の損失を解決するため、日立が開発したのが独自の漏水管理システムだ。漏水量を減らすには、漏水箇所をすばやく見つけ、迅速に調査・修繕などの対策を施すことが必要だが、通常は熟練作業者が音調機器によって探索するなど、人手に頼る方法で実施されているため、多大な時間と労力がかかっている。
そこで日立は、漏水対策を効率的におこなえるよう、漏水の多いエリアを推定する技術を開発した。具体的には、水道管網に取り付けた流量・圧力センサー情報と、水道管の敷設された年や老朽度などのアセット(資産)情報、水理解析技術とを組み合わせてシミュレーション解析をおこない、漏水しているエリアを推定する。この技術を活用した漏水管理手法は、漏水を探索する前に、漏水が多発している可能性が高いエリアを絞り込めるため、漏水箇所を見つけてから対策するまでの期間を格段に短縮することができる。また、漏水箇所をエリアで推定するシステムであることから、必要となるセンサーの数が少なくすみ、低コストで導入できる点でも優れている。
日立は、漏水管理システムの効果を実証するため、2013年8月から2014年9月まで、シンガポールにおいて水道管網を使ったフィールド試験を実施。消火栓からの放水を漏水と見立てた実験では、放水エリアでの模擬漏水の増加を正しく特定することに成功した。その際、本システムの適用に必要なセンサーの数は、推定すべきエリアに最低1つあれば良く、少ないセンサー数で適用できることを確認できた。こうした好結果が出たことを受けて、2016年、日立は高い無収水率に悩む東南アジアなどへの提供を開始した。
日立は、IT(情報技術)とOT(制御技術)を併せ持つ強みを活かして、漏水管理システムをはじめ、さまざまなシステムを組み合わせた漏水対策のソリューションを提供してきた。現在、貴重な水資源を有効に活用することがますます求められている中、今後も、監視制御システムや管網管理システムを基盤に、効率的な水運用を実現するとともに、世界の水問題の解決に向けてさらなる貢献をめざしていく。
公開日: 2017年7月
ソリューション担当: 日立製作所 水ビジネスユニット