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2015年6月に改定された経済産業省・資源エネルギー庁の「中長期ロードマップ」では、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取り組みが、今後、30年から40年続くとされている。その具体的な作業工程を計画する上で課題となっているのが「燃料デブリ」の状況把握だ。「燃料デブリ」とは、核燃料が原子炉圧力容器(RPV:炉心を納めた容器)内で溶け落ち、一部はRPVを突き抜けて構造物と混ざり合いながら原子炉格納容器(PCV)内に落ちて広がっていると考えられている物だ。燃料デブリを取り除くには、それがどこにどのようにあるのかを正確に把握する必要がある。人が立ち入れない過酷環境の中、調査にあたるロボットに搭載されたのは、小さなカメラ付きセンサだった。

事例の概要

  • 少しずつ「見えて」きた原子炉格納容器(PCV)内の状況
    技術研究組合 国際廃炉研究開発機構(IRID) の組合員として参加している日立GEニュークリア・エナジー(日立GE)が、調査のための遠隔操作ロボットを開発し、2015年4月に1号機のPCV内に投入(B1調査) 。この調査の結果、PCV内の現状を知るさまざまなデータが得られ、次の調査の具体的な計画を進めることが可能になった。
  • 誰も見たことがない。だから、まず見に行く
    B1調査により、原子炉格納容器(PCV) 内部の環境や、構造物の状況の他、ペデスタル外部のグレーチング上に、ロボットが移動できる調査ルートが幾つかあることが分かった。2回目調査(B2調査) は、燃料デブリがペデスタル外部にまであふれ出ていないかを確認することが目的となり、その調査に向けてPMORPH(ピーモルフ)が開発された。
  • より近くで、より確かに「見る」「測る」ためにつり下げ式センサを搭載
    PMORPH(ピーモルフ) は、PCV内部に投入するための配管を通り抜けるときの棒状形態から、グレーチング上を安定走行するためのコの字型に変型する。また、グレーチングの格子の隙間からカメラ付きセンサを降ろし、高い放射線、水中でも耐えられる設計だ。センサには線量計も内蔵されており、より確かな燃料デブリの状況を把握することができる。

背景

少しずつ「見えて」きた原子炉格納容器(PCV)内の状況

第1回目の調査(B1調査)用形状変化型ロボット
※資源エネルギー庁の廃炉・汚染水対策事業費補助金にてIRIDの業務として開発

福島第一原子力発電所の廃炉作業は、「中長期ロードマップ」に則り東京電力の社内カンパニーの一つである福島第一廃炉推進カンパニーが担っている。また廃炉作業に必要な研究開発を実施しているのが技術研究組合 国際廃炉研究開発機構(IRID)だ。IRIDは、2013年に日本原子力研究開発機構、産業技術総合研究所、電力会社等12社、プラントメーカー等4社、計18法人で設立された。日立GEニュークリア・エナジー(日立GE)も組合員として参加。使用済燃料プール取り出しに係る研究開発、燃料デブリ取り出し準備に係る研究開発、放射性廃棄物の処理・処分に係る研究開発の全てに関わり、その一環であるPCV内部調査技術の開発のうち、ペデスタル(原子炉圧力容器(RPV)を支えるコンクリート製の構造物)外の調査技術の開発を担当している。

日立GEは、調査のための遠隔操作ロボットを開発し、2015年4月に1号機のPCV内に投入した。PCV内の空間には、中央にRPVとそれを支えるペデスタルが設置されている。ペデスタルの周囲には、定期点検時に人が歩けるように囲まれたグレーチングと呼ばれる格子状の床面があり、ここにロボットが降ろされた。この1回目の調査(B1調査)には、2台のロボットが投入された。1台目は途中で床面の隙間に挟まって動けなくなり、2台目は放射線の影響で作業状況を確認するカメラの視界が悪くなったため、回収せず残置することとなったが、この調査の結果、PCV内の現状を知るさまざまなデータが得られ、次の調査の具体的な計画を進めることが可能になった。

現在

誰も見たことがない。だから、まず見に行く

2回目の原子炉格納容器(PCV)内部調査用ロボットPMORPH(ピーモルフ)公開の記者会見(2017年2月3日)

B1調査により、原子炉格納容器(PCV)内部の環境や、構造物の状況の他、ペデスタル外部のグレーチング上に、ロボットが移動できる調査ルートが幾つかあることが分かった。日立GE原子力設計部の岡田聡主任技師は、調査を前に進めるための貴重な情報がB1調査から得られたという。

「PCV内下部には燃料デブリが広がっていると考えられ、水を溜めることで、安定冷却を維持させています。これまでの調査の結果、水中には堆積物もあることが分かりました。水中を走行する方法も考えましたが、その調査方法では堆積物の舞い上がりや走行上の不具合等、リスクが高いと判断しました」(岡田主任技師)

ペデスタル下部には、作業員の出入り口があり、ここから燃料デブリがペデスタル外部にまであふれ出ていないかを確認するのが2回目調査(B2調査)の目的とされた。外部に燃料デブリが大量に出ていればその取り出し作業を優先させ、その量が多くなければ内部の取り出し作業を優先させる。今後の作業工程の具体化に必要な確認だ。

「誰も見たことがない。だから、まず状況を調査しに行く。そして、1つでも情報が手に入れば、次の1歩が見えてきます。人間の代わりに現場に行き、そして調査するためにどんなロボットが必要か。多くの技術者、開発チームの試行錯誤を結実したのが、B2調査を行うロボット、PMORPH(ピーモルフ)です」(岡田主任技師)

記者会見の様子(2017年2月3日)

今後

より近くで、より確かに「見る」「測る」ためにつり下げ式センサを搭載

実物大の模擬体で運用試験が重ねられた

PMORPH(ピーモルフ)とは、原子炉格納容器(PCV)の頭文字と昆虫の形態変化を意味する(メタモルフォーゼ:metamorphose)から命名された。PCV内部に投入するための配管を通り抜けるときの棒状形態から、グレーチング上を安定走行するためのコの字型に変型する機能に由来している。調査では、変型後、ペデスタルの周囲のグレーチング上を半周して作業員出入り口上部付近まで移動。そこからPCV床面までは3.5mあり、間には水が貯まっている。その先の燃料デブリの有無を確認するために、PMORPH(ピーモルフ)にはつり下げ式センサが取り付けられた。

グレーチングの格子の隙間から、直径20mm、長さ40mmのカメラ付きセンサを最大3.5m下にまで降ろすことができる。高い放射線、水中でも耐えられる設計だ。センサには線量計も内蔵されており、異なる位置と高さで計測し、空間の線量率を3次元的に捉えることができる。より確かな燃料デブリの状況を把握するため、「見る」と「測る」を組み合わせたPMORPH(ピーモルフ)。現場でのさまざまな事態に備え、1号機PCVの実物大の模擬体を使用した運用試験がくり返された。

「調査目的の100%実行が理想ですが、現場では何が起きるか分かりません。1つでも多くを知り、廃炉を1歩でも前に進める情報を得る。そのための技術的な苦心苦労を重ね、最善の状態でロボットを送り出す試験をくり返しています。燃料デブリの広がりが分かれば、次は、その性状や構造物の状態等を確認し、燃料デブリの取り出し作業に出来るだけ早く着手する必要がある。廃炉に向けてやるべきことは、まだまだたくさんあります」(岡田主任技師)

その調査のために、必要な能力を備えたPMORPH(ピーモルフ)の進化も続く。2017年3月18日から22日まで実施された第2回調査(B2調査)の結果やPMORPH(ピーモルフ)の開発については、次回の岡田主任技師のインタビュー記事にてお伝えする。

※「PMORPH(ピーモルフ)」の開発は資源エネルギー庁の廃炉・汚染水対策事業費補助金にてIRIDの業務として実施したものです。

公開日:2017年5月

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