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    • エネルギー
    • アナリティクス

    日本のエネルギー政策が見直され、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーの大量導入が加速している。
    日立は、島しょ部でも、自然環境を活かした自然エネルギーの安定した電力供給を実現するため、安全で低コストな蓄電システムの実用化に取り組んでいる。

    事例の概要

    • 課題
      天候によって発電量が左右される自然エネルギーの大量導入は、周波数の変動を引き起こすため、電力系統が不安定になるという問題が発生する。この安定化のために蓄電システムが注目を集めているが、システムの安全性の確保、長寿命や低コスト、さらに、長周期と短周期のいずれの周波数変動にも対応が必要という課題が残っている。
    • 解決策
      日立は、安全・安価で容量が大きい鉛蓄電池と急激な周波数変動に対応できるリチウムイオンキャパシタの長所を組み合わせたハイブリッド型蓄電システムを開発。島しょ部におけるマイクログリッドでの実用化に向けて、蓄電システムの寿命や性能を評価し、運用に必要な制御技術を確立するため、伊豆大島で実証試験を行っている。
    • 展望
      2015年に実証試験を開始したハイブリッド型蓄電システムは、2018年の実用化に向けて、制御技術の有効性や、既設発電所の運転への影響評価などの検証を行っている。今後も日立は、島しょ部に自然エネルギーを導入するための電力系統の安定化とともに、安全で低コストな蓄電システムの実用化をめざしていく。

    課題

    自然エネルギーの大量導入の中で電力系統を安定させるには

    日本のエネルギー政策が見直され、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーの導入が加速する中、自然エネルギーの大量導入によって生まれる新たな課題が浮かび上がっている。それは、周波数変動によって電力系統が不安定になるという問題である。

    電力は需要と供給が一致していなければならず、この2つにズレが生じると周波数が変動する。一般に電力会社は周波数変動を0.2Hzに抑えることに努めており、変動が大きくなると制御装置などの機器に影響がおよぶ。それが数Hzにもなると発電所の発電機が停止し、さらに影響が大きくなるという事態が生じるため、電力系統が不安定となるわけだ。つまり、天候によって発電量が左右される自然エネルギーの大量導入は、需要と供給のバランスを乱すきっかけとなるだけでなく、それが周波数変動を引き起こすため、電力の安定供給を損なう原因ともなる。

    こうした社会課題に対応するために日立が取り組んできたのが、蓄電システムの開発である。ハワイでの実証など国内外でプロジェクトを進めているほか、2011年から国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「安全・低コスト大規模蓄電システム技術開発」にも取り組み、成果を上げてきた。

    この注目を集める蓄電システムにも、解決しなければならない問題は少なくない。ひとつは、ひとくちに周波数の変動といっても長周期のものと短周期のものがあり、どちらにも対応しなければならないことだ。また、システムの安全性を確保することはもちろん、電気事業用のシステムであることから長寿命が求められる。さらに普及の観点からは、低コストも重要である。

    解決策

    ハイブリッド型蓄電システムを開発し、伊豆大島で実証実験

    周波数の短周期変動を抑制するのに有利なリチウムイオンキャパシタ

    そこで日立が考えたのは、鉛蓄電池とリチウムイオンキャパシタを組み合わせたハイブリッド型の蓄電システムの開発ということだった。

    産業用で使われる安全で安価な鉛蓄電池は、容量が大きく「持久力」がある反面、短周期の急激な変動を吸収するのには向いていない。一方、リチウムイオンキャパシタは急激な変動に対応できる「瞬発力」があるが、容量が小さく長周期変動の吸収に向いていない。そのため、日立は両者の長所を組み合わせ、長周期と短周期の変動に対応することにした。

    開発のねらいは、可変速揚水発電所と同等の周波数制御範囲をカバーすること。その実現のため、日立はNEDOの助成のもとでグループの新神戸電機株式会社(現日立化成株式会社)と共同開発を推し進め、1.5MWハイブリッド型蓄電システムを完成させた。

    日立が開発したハイブリッド型蓄電システムは、東京電力パワーグリッド株式会社の協力のもと、東京・伊豆大島で実証試験を行っている。伊豆大島は本土と独立した電力系統になっているため、自然エネルギーの大量導入に伴う影響を評価するのに適しているからだ。

    データを読み解く分析力をコアに蓄電システムを実用化

    東京電力パワーグリッド株式会社のディーゼル発電施設

    実証用蓄電池システムの運転状況をモニターする監視制御装置

    実用化を視野に入れた実証試験では、とりわけ蓄電システムの寿命が大きな問題となる。鉛蓄電池を開発した日立化成には、10年以上におよぶ出力緩和用途での導入実績があり、長期間の実稼動実績を積んだ電池の調査・解析によって電池性能の向上を果たしてきたノウハウがある。今回は、日立化成の持つ実データとも突き合わせながら劣化解析を行うなどして、寿命や性能を評価する。さらに、実証用蓄電池システムの運転状況をモニターする監視制御装置を製作し、現地での監視に加え、大島発電所、日立の大みか事業所(茨城県)での遠隔監視を実施。こうしたデータを調査・解析することによって、蓄電システムの運用に必要な制御技術を確立していく。

    伊豆大島では、ディーゼル発電機による発電が主となっており、蓄電システムの活用によってその「たき減らし」による燃料費削減の効果をみることも実証の検討内容のひとつとなる。自然エネルギーの活用とディーゼル発電機の最適運用を進めることで、化石エネルギーの石油などに依存している他の島しょ部も含めた電力事情を経済的に改善することも、日立は視野に入れている。

    展望

    日立はこれからも自然エネルギーの大量導入に貢献していく

    2015年から始まった伊豆大島での実証試験は、東京電力パワーグリッド株式会社との共同研究というフェーズに入っている。制御技術の有効性や既設発電所の運転への影響評価を検証し、今後は島しょ部のマイクログリッドの電力安定化に貢献するため、2018年を目標に実用化に向けて取り組んでいるところだ。

    日本には、伊豆大島だけでなく、本土と独立した電力系統となっている島しょ地域が少なくない。島の自然環境を活かして自然エネルギーを導入するためには、天候による出力変動の対策が不可欠である。島しょ部の電力系統の安定化とともに、日立は安全で低コストな蓄電システムの実用化をめざし、自然エネルギーの大量導入に伴う社会課題の解決に貢献していく。

    島しょ部の隅々まで、生活を支える安定した電力の供給に貢献していく

    公開日: 2016年9月
    ソリューション担当: 日立製作所 エネルギーソリューションビジネスユニット